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ENGINEERING
5G,Network
IoTIoTInternet of Thingsの略。さまざまなモノがインターネットに接続され、情報交換することで相互に制御する仕組みのこと。テレビやエアコン、自動車など活用分野は広がっている。社会の基盤技術として期待されている5G。そのカギを握る「ミリ波」を使っていったいどのようなことができるのか?後編では自動運転技術などビジネスシーンへの応用を東京工業大学の阪口啓教授に聞きました。
国民的な盛り上がりを見せた「ラグビーワールドカップ2019 日本大会」では、NTTドコモが5G専用端末を使った「マルチアングル視聴」などの5Gプレサービスを実施しました。「高速・大容量」「多接続」「低遅延」という5Gの特長を実際に一般ユーザーが体験できる場として注目を集めました。来年の東京オリンピック開催を前に、まずはスポーツシーンでの5G活用に期待が膨らむなか、阪口教授はこう話してくれました。
「2020年のオリンピックで登場するのは、大容量通信が必要なARやVRを使ったサービスでしょう。なかでも、ドローンなどのモビリティのあるカメラを使ったセキュリティ技術が今研究されています。ドローンを上げて、高精細カメラで撮り、リアルタイムに地上に送ってAIによる解析を行う。大容量、低遅延の両方を兼ね備えた5G技術だからこそ実現できるのです」(阪口教授)
先に挙げた5Gの3つの特長は、例えば下図のような、医療や自動運転などの社会インフラに関わる分野でも活用され、さらにはこうした産業だけでなくバーチャルオフィスなど働き方改革にも大きな変化をもたらすと期待されています。
前編では5Gを支える技術の一つ「ミリ派」をご紹介しました。高周波数で通信容量が大きく、通信範囲が狭いのが特徴の電波です。このミリ派を使った5Gがその本領を発揮する分野の一つに自動運転技術があります
「5G技術を使った自動運転では、近くの車同士がミリ波を使い通信しながら走ります。周辺車両のセンサー(カメラ)や信号機などの路側帯に設置されたカメラの情報、およびそれらで検知された障害物や歩行者などの情報を車同士で通信しながら把握して走ります。これを『協調認知』と呼びます。従来の通信ネットワークはただの土管(情報を伝達するだけ)でしたが、ネットワーク自体が大きな計算機となり、こうした相互通信による情報処理をすることで、『ネットワークが知性を持つ』という世界が待っています」(阪口教授)
この協調認知やネットワークが知性を持つことによって、例えば「事故のないF1レース」やAI技術と組み合わせて「自動運転で寝ながら会社に出勤」という夢の世界も実現可能だと言われています。さらには高齢ドライバーによる交通事故の減少や過疎化が進む地域でのドライバー不足の解消など、これからの高齢化社会になくてはならない技術でもあります。
ミリ波を使い車同士および車と路側帯が通信し合うことで、交差点のない6車線をぶつからずに交差することも可能に。
最後に、日本の未来について阪口教授はこう語ります。
「日本は車の技術も強い、ネットワーク技術も高い。しかし、通信を使ったアプリケーションの開発力が弱い。新幹線のように輸出できる事業になるだけに、ビジネスへの応用、アイデアの創出に力を入れるべきです」(阪口教授)
現在、世界で最も5G先進国と言われている中国。実に5Gに関する特許の世界シェアの3割以上を握っています。阪口教授が話すコンテンツの開発力に勝機を見いだせるか、来るオリンピックに向けて日本企業の底力がまずはスポーツの分野で試されることになりそうです。
プロフィール
阪口啓(さかぐち・けい)
東京工業大学工学院教授。「ミリ波」など無線技術の研究に携わり、5G技術の国際標準化を牽引した中心人物の一人として活躍中。
2018年3月より株式会社オロの社外取締役に就任。