プロフェッショナルコラム

会計のプロが語るIFRSの本質とは? 第1回 ~経営者が決算書を創る時代 前篇

いま企業価値を計る"ものさし"が、世界的に統一されつつある。その"ものさし"とはIFRS(国際財務報告基準)。IFRSはすでに世界100ヵ国以上で適用され、日本の上場企業にも2016年までに強制適用される予定だ。

その強制適用を前にして、監査法人A&Aパートナーズの進藤氏と寺田氏は日本企業の現状に警鐘を鳴らしている。両氏は「多くの日本企業はIFRSの本質を理解せずに準備を進めている。このままでは多額のムダ金がドブに捨てられかねない」と指摘する。今回は進藤氏と寺田氏に、IFRSの本質やIFRS導入の成功ポイントなどについて語ってもらった。

IFRS導入を通じて自社の経営方針を市場に積極的にアピールできる

―世界的に会計基準の統一が進む中、ついに日本企業にもIFRSの適用が既定路線となりました。「財務諸表が変わる」、「利益の概念が変わる」など、IFRSについては様々な論議が巻き起こっています。

進藤氏 ええ。実際、いまIFRSの注目度は高く、数多くのメディアで取り上げられています。しかし、メディアでは大事なポイントがほとんど論じられていない。減価償却がどうとか、在庫がどうとか、細かい会計処理の話ばかりが論じられているんです。それらは、誤解を恐れずに言えば、すべて枝葉末節の話。もっと根本的に重要なことがあるんです。

―IFRSの適用において、最も重要なこととは何ですか?

進藤氏 それは、自社の経営方針を市場に積極的にアピールできるようになること。これが最も重要な点だと思います。従来の日本の会計基準では、自社の経営方針を市場にアピールするのは難しかった。規則主義だったからです。それが原則主義のIFRSの適用により、大きく変わるんです。また、IFRSは世界100ヵ国以上で使われている「企業価値をはかるためのツール」です。IFRSという世界共通の“ものさし”を導入すれば、世界中の投資家に自社を積極的にアピールできるようになります。

寺田氏 たとえるなら、今までの会計基準では、企業は「制服」を着せられていたようなものです。ファッションセンスのある人も、「制服」では個性を表現しにくかった。そして、IFRSの適用というのは、その「制服」が撤廃されるようなものです。どんな服でも自由に着られるようになる。しかも、世界中の人に自分のファッションセンスを評価してもらえるようになるわけです。

―なるほど。従来の日本の会計基準から大きく変化するわけですね。「従来の会計基準」と「IFRS」の違いを具体的に教えてもらえますか。

a&a01.jpg 進藤氏 まずベースとして知っておくべきなのは、IFRSとは「開示基準」だということ。従来の「会計基準」とは大きく異なるんです。その開示の対象者は投資家。投資家が知りたいのは、「その企業はどれくらい企業価値があるか」、そして「その企業がどう経営されているか」。それらの情報開示ニーズに応えたものがIFRSなんです。

寺田氏 投資家の情報開示ニーズを踏まえ、IFRSでは従来の会計基準から大きく2点が変更されています。1つ目は、「企業の業績評価」から「企業の価値評価」への転換。投資家は「過去の利益実績」よりも「将来の企業価値」が知りたいと考えています。「将来の企業価値」とは、企業がキャッシュを生み出す能力のこと。そのためIFRSでは「PL(損益計算書)重視」ではなく「BS(貸借対照表)重視」となっています。2つ目は、「規則主義」から「原則主義」への転換。従来の会計基準の特徴は「規則主義」。会計処理のルールや数値基準が細かく定められていました。

そして企業はその会計ルールに沿って、画一的に会計処理をしていたんです。しかし投資家から見ると、細かいルールで規定され過ぎると、企業の経営実態が見えにくくなる。そこで、IFRS では、大まかな原則を示すだけの「原則主義」をとっています。IFRSでは細かい会計処理のルールや数値基準は定められていません。そのため、企業は自社の経営方針に沿って、会計処理のルールを決めなければならないんです。

IFRSでは、自社で会計方針を決められる

―詳細なルールのない「原則主義」では、どうやって会計方針を決めるのですか?

寺田氏 では「減価償却」を例にとって具体的に説明しましょう。ある飲食店が設備投資をした とします。従来の会計基準ならば、その耐用年数は税法なども参考にして「5年」「10年」などとルールで明確に定められています。そのため、企業は自動的に会計処理を行い、そこには自社の経営判断を挟む余地はありません。

 一方、IFRSでは、具体的な耐用年数は定められていません。「耐用年数は、経営判断による使用見込年数を適用する」というような原則が示されているのみ。企業は経営者の経営方針をもとに、自社で具体的な耐用年数を決定することになります。そのため、同業の2社が同じ設備投資をしたとしても、「A社は5年」、「B社は7年」と異なる耐用年数を採用するケースもありえます。

―「自社で会計方針を決められる」ならば、企業は自社に都合のよい判断をしませんか?

寺田氏 いえ、それは難しいでしょう。なぜなら企業が経営方針を定め、それに沿って業務を行えば、会計方針も必然的に決まるからです。よく誤解されがちなのですが、企業がその経営方針から離れて、会計方針を別個に決定する裁量はないんです。

 さらに、企業は投資家に対して、経営判断の詳細を開示する必要があります。もし経営判断の妥当性が低ければ、投資家から追及され、ひいては企業価値が低下します。また、妥当性の低い会計処理であれば、そもそも監査法人がその決算書を認めないと思います

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後篇は2月25日更新予定です

「会計のプロが語るIFRSの本質とは?~経営者が決算書を創る時代 後篇」は、2月25日(金)更新予定です。乞うご期待ください。

取材・文/丸山 広大 撮影/目黒 ヨシコ
※本コラムは「経営者通信第9号」(発行:株式会社幕末)から抜粋しています。

進藤 直滋

写真:進藤 直滋

監査法人A&Aパートナーズ
監査法人A&Aパートナーズ パートナー 公認会計士

1948年、新潟県生まれ。東京大学経済学部を卒業後、1975年に監査法人中央会計事務所に入所。1990年から1992年までロサンゼルス事務所に駐在。その間、同法人の日系ビジネス北米統括担当。帰国後は監査業務と法人部門管理業務を兼務。2007年に監査法人A&Aパートナーズの代表社員に就任。公認会計士。主な著書に『明解連結会計』(TAC出版社)、『退職給付会計実務のすべて』(日本経済新聞社)。

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