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資金繰りとは。悪化する理由や改善方法、資金繰り表の作り方を解説

2023/11/24公開

会社の現金及び預金の収支予測をし、コントロールすることを資金繰りと呼びます。資金繰りは会社を安定させるために必要なものです。もし資金繰りがうまくいっていなければ、支払いが滞り、経営上は黒字でも倒産してしまう可能性があるでしょう。

本記事では資金繰りが必要な理由や悪化する原因、そして資金繰り表の作成方法について詳しく解説します。支払いの遅延や黒字倒産などのリスクを避け、会社を成長させるために、資金繰りについて理解していただけたらと思います。

資金繰りとは

資金繰りとは、会社の収入と支出を管理して手元資金が不足しないように調整することです。「資金」とは現金や普通預金、当座預金といった「すぐに現金化できるもの」を意味します。反対に、定期預金や売掛金、不動産、設備といった「現金化に時間を要するもの」は資金とは呼びません。

手元資金が少なくなってしまい支払いに影響が出る状態を「資金繰りが悪い」「資金繰りが厳しい」と言い、反対に資金が多く、支払いに余裕がある状態を「資金繰りがいい」と言います。

製品やサービスが売れても、すぐに資金が手に入るとは限りません。特に法人相手の取引では、売上が発生した後に請求書を発行しても、入金まで1~2か月かかることがあります。資金繰りがうまくいっていない状態だと、売上金が入金されるまでの間、社外への支払いや従業員への給与支払いができなくなるかもしれません。外部への支払いが滞れば、会社の信用問題にも関わるでしょう。

このような事態を避けるために、資金繰りは経理だけに任せるのではなく、経営者も常に把握しておく必要があるでしょう。 収入と支出は、資金繰り表を使って管理することが一般的です。資金繰り表の作り方は後ほど解説します。

キャッシュフローとの違い

キャッシュフローとは「一定の会計期間内にどれくらいのお金が入ってきて、どれくらいのお金が出ていったのか」を計算し、経営状況を分析するものです。キャッシュフローが実績を分析するのに対し、資金繰りは未来のお金の流れを予測します。

決算時に作成する財務諸表やキャッシュフロー計算書は「過去の経営状況をまとめた資料」であり、1年間の経営状況を会社の利害関係者へ知らせる役割を担っています。そのためキャッシュフロー計算書では、手元資金の動きを見ることはできません。一方の資金繰り表は、手元資金の流れを社内で把握するために作成します。

資金繰りが必要な理由

資金繰りは会社の規模の大小に関わらず必要です。資金繰りが必要な理由をひとつずつ見ていきましょう。

黒字倒産を回避するため

黒字倒産とは、製品やサービスが売れていて利益を上げている黒字経営状態にも関わらず倒産することです。資金繰りを把握することで黒字倒産を回避できます

たとえば取引相手が会社の場合、売上金は当日ではなく翌月末入金とする契約も多いでしょう。売上金が入ってくるまでの間に、給与や家賃、製品を作る際の原材料費の支払い、金融機関への返済などで手元資金以上の支出があれば、現金が不足してしまいます。その結果、帳簿上は利益があっても、支払いができずに倒産してしまうのです。

いつ、どのくらいの資金が必要になるかを把握し、いつ、どこから、どのように資金を調達するのかといった資金繰りを計画することによって、「資金が足りない」状況を未然に防ぎます。

借入時の評価対象になるため

金融機関で借入を行う際に必要な書類のひとつに、資金繰り表があります。金融機関は資金繰り表を参考に、その会社が借入金を返済できるかどうかを審査します。

正確な数字の資金繰り表を用意していれば資金が不足する時期と金額がわかるので、申請する借入額の根拠になり得るでしょう。事業内容や経営状況によって異なりますが、資金繰り表は最低でも6カ月間は準備しておくことをおすすめします。さらに、借入金が返済可能な時期も明確になり、経営者が長期的な経営プランを立てているという評価につながります

また、過去の実績は試算表を元に審査されます。試算表とは、決算書ができるまでの間に作成する表のことで、貸借対照表や損益計算書の期中の状況を確認することができます。借入の際は、期中に行われた売上の実績や利益、借入金の状況を示すために、試算表の提出も準備しておきましょう。

財務状況の把握・改善のため

資金繰り表を作成することで、売掛金や買掛金がいくらあるのかといった財務状況、過剰在庫などが把握しやすくなります。そのため自社の財務状況において、資金不足の原因がどこにあるかすぐに見つけ、改善を図ることが可能です。また、将来の資金の流れが把握できるため、資金不足にいち早く対応できます

資金繰りが悪化する原因

資金繰りが悪化するのにはいくつかの原因があります。主な原因を具体的に見ていきましょう。

継続的な赤字経営

赤字経営が続くと徐々に資金が不足していきます。赤字経営とは収入が支出を下回っている状態を指し、支出には原材料費などの変動費のほか、家賃や給与など製品・サービスの生産に関わらず毎月発生する固定費も含みます。 事業で利益を生み出せない状況が続くと固定費の支払いが困難になり、資金繰りの悪化に繋がるでしょう。

急激な売上の増減

売上が急激に減ったときはもちろん、急増したときも資金繰りは悪化することがあります。なぜなら、大きな売上があったときには、製品をつくるための原材料費や販売に必要な人件費などの費用も、売上に比例して増えるからです。支払いが増加した分、普段より資金に余裕を持っておかなければ資金繰りが悪化する可能性があるのです。

過剰に在庫を保有

在庫は販売され、入金があってはじめて現金化する資産です。つまり在庫を製作してから入金されるまでは時間がかかり、その間は製作費用と管理コストといった支出だけが発生している状態です。そのため、過剰に在庫を持つことは資金繰りを悪化させます。さらに、在庫を長期間かかえれば、管理コストがかかるだけでなく、破損や紛失のリスクも発生するでしょう。 在庫は販売しなければ売上につながらないためなるべく早く処理する必要があります。

売掛金回収の遅延

売掛金とは、まだ入金されていない売上のことです。取引先の都合や自社のミスにより支払期日より入金が遅れてしまうと、計画していた時期に現金が入ってこなくなります。 また、取引先が倒産した場合は売掛金の回収自体ができなくなるでしょう。売上に関連した原材料費や人件費といった経費はかかっているので、資金繰りの悪化に大きく影響します。

資金繰り表の作成

資金繰りは、資金繰り表を作成して管理します。資金繰り表を作成することで収入と支出を予測し、今後のお金の流れを可視化することができます。 銀行から借入を必要としていない場合でも、資金繰り表があれば資金繰りが悪い原因をすぐに見つけ、最短で改善策を講じることができるでしょう。

資金繰り表は定期的に更新し、チェックすることが求められます。資金繰り表には日次・月次・年次の3種類があり、長期的な資金繰りの予測が立てやすいのは月次の資金繰り表です。会社の資金繰りを安定させるために、まず月次の資金繰り表から作成することをおすすめします。

資金繰り表の項目

以下が資金繰り表の主な項目です。

前期繰越現金・当座預金 前月から繰り越された現金預金額
収入 現金売上、売掛金回収、手形期日落、手形割引など
支出 現金仕入、買掛金支払、手形決済など
財務 借入金 短期借入金や長期借入金
借入金返済 短期借入金や長期借入金の返済
翌月繰越現金・当座預金 前月繰越と今月の収支の合計額

営業における収入、支出のほか、借入金の入金や返済も含め、資金全体の流れを把握できる形にしておく必要があります。

資金繰り表作成に必要な資料

資金繰り表を作成する際は、各項目の数値を把握するため、下記の資料を用意しておきましょう。

  • 月次試算表
  • 現金出納帳
  • 預金出納帳
  • 設備投資予算
  • 将来の販売計画
  • 人員計画等
  • 借入金返済予定表

資金繰り表の作り方

Excelで無料のフォーマットを用意し、それぞれ項目を入力することで作成可能です。日本政策金融公庫のホームページでは無料のフォーマット(*1)が公開されているため、参考にするのもいいでしょう。

ここからは日本政策金融公庫上の簡易版フォーマットを参考に、資金繰り表作成の流れを見ていきます。

  1. 月次試算表、現金出納帳、預金出納帳等を元に、「前期繰越現金・当座預金」に期首残高を記入します。
  2. 設備投資予算、将来の販売計画、人員計画等を元に確定分・過去の実績・季節性等を考慮し、予想の「売上高」「仕入・外注費」を月次で記入します。
  3. 期首における受取手形、売掛金の回収予定金額及び、それ以降の予想売上高に対する予想の「現金売上」「売掛金現金回収」「手形期日落」を月次で記入します。月次試算表からこれらの情報を抽出します。
  4. 期首における「支払手形」「買掛金」の支払予定金額及び、それ以降の予想「現金仕入」「外注費」に対する予想支払金額を月次で記入します。期首における数字は月次試算表から確認することができます。「現金仕入」「外注費」は前年の実績を元に予想を立てます。
  5. 「経費」の予定金額を月次試算表から予想し、月次で記入します。
  6. 借入金返済予定表から「借入金返済」の予定金額を月次で記入します。新規調達予定分も忘れずに記入しましょう。
  7. 各月で資金不足が発生する場合、資金不足を補てんするための資金調達手段を検討し、調達予定月に金額を記入します。

資金繰り表を経営分析に役立てるには

資金繰り表を使った経営分析においては、「資金不足が発生しないか」「いつ資金不足が発生するか」が注視すべきポイントです。「翌月繰越現金・当座預金」項目がマイナスの場合、資金不足が発生しています。なるべく早く資金調達方法を検討しましょう。

また、本業での資金の収支が黒字になっているかを確認し、本業での収益で固定費の支払いをしていけるかを見ることも、経営状況の把握に役立つでしょう。

資金繰り表において本業での収支は、収入から支出を差し引いた「差引過不足」で確認できます。差引過不足がマイナスの場合は、「収入」が少ないのか「支出」が多いのか確認してみましょう。「収入」が少なければ、そもそもの売上を上げたり売掛金回収の期日を早める必要があります。「支出」が多い場合は、仕入れの金額を下げるのか買掛金の支払を遅らせるのか、経費を削減するのかといった対策が有効です。

資金繰りを改善する方法

ここからは、資金繰りの改善方法を具体的に紹介します。

売掛金・買掛金の期日を調整する

なるべく早く売掛金を回収し、反対に買掛金は支払い期日に余裕を持たせることで、十分な手元資金を確保できます売掛金の回収が遅くなればなるほど、貸し倒れのリスクも高まります。貸し倒れとは、取引先の経営状況が悪化し、売掛金の回収ができなくなることです。

売掛金を早く回収するためには、売り上げた製品やサービスの納期を早めたり、手形割引を活用するという方法があります。手形割引を使えば、銀行に手数料を支払うことで支払期日より早く現金化することが可能です。買掛金の支払い条件や期限の延長を交渉するのもひとつの手ですが、一方的な主張にならないように、双方が納得できる形での交渉を行う必要があります。

経費を削減する

経費を削減して支出を抑えることでも、資金繰りの改善が可能です。特に、広告費、地代家賃などの定期的な支出は削減できれば大きな改善効果が見込めます。必要以上に支払っている経費はないか、使っていないサービスに経費を支払っていないか確認しましょう。原材料費や運送料などの仕入れコストも削減できれば支出を抑えられます。

削減が難しい人件費も、無駄な作業を無くして残業代を減らしたり、新しく人を雇う代わりにアウトソーシングを利用したりすることで、社員のモチベーションを下げることなく削減可能です。

経費の削減は、製品・サービスの品質を落とし、売上を減少させる可能性もあります。そのため、削減する経費は慎重に精査するようにしましょう。

在庫を見直す

先述したように、在庫を抱えすぎると資金化が滞り、資金繰りが悪化します。今ある在庫を見直し、適切な量の在庫をキープすることで資金繰りが改善します。

適切な在庫量をキープするためには主に、

  • 販売数を予測する
  • 発注方法を見直す

という方法があるでしょう。

月ごとの販売実績、顧客や業界の動向を分析することで、販売数を予測します。予測した販売数に加えて、万が一急な需要変動があった場合でも対応できる最低限の在庫を見積もることで、適正な在庫数を割り出すことが可能です。

そのうえで、適切な発注方法を選択することも重要です。発注方法は「定期発注方式」と「定量発注方式」の2種類があります。定期発注方式は、毎週〇曜日、毎月〇日、などのように定期的に発注する方式です。発注ごとに必要な量を予測する必要がありますが、需要に波があった際にも対応することができます。定量発注方式は、特定の量を下回ったタイミングで、決まった量を発注する方式です。発注する量が決まっているため、発注ごとに必要な量を予測する必要がありませんが、需要の変化に対応しにくいというデメリットがあります。 会社の商品や規模によって適切な発注方法は変わるため、過去の実績から分析し、適切な方法を検討しましょう。

不要な資産を売却する

不動産や有価証券、特許権など、使用していない資産や事業に影響のない資産を売却して資金繰りを改善します。即効性が高い方法であると同時に、資産の維持費を削減する効果もあるので、長期的な資金繰りの改善も見込めます

資金を調達する

新たに資金を増やすことで、資金繰りを改善することができます。金融機関からの借入が代表的な資金調達の方法です。

国や自治体が提供している補助金や助成金を活用するのもおすすめです。補助金や助成金は様々な種類があり、要件を満たせば返済が不要であることも特徴です。自社で申請できるものがあるか確認してみるといいでしょう。また、近年では新たにクラウドファンディングも資金調達の方法のひとつとなっています。

まとめ

会社の収入と支出を管理する資金繰りは、経営を安定させるために重要なものです。売上が上がっていても資金繰りを上手くできていなければ、支払いができず黒字倒産のリスクもあります。このようなリスクを避けるためには、資金繰り表を作成し、常に財務状況を把握できるようにしておく必要があります。会社の安定と成長のために、まずは資金繰り表の作成からはじめてみましょう。

資金繰りには社内データの収集と分析が必要です。もしも社内の収支の算出に時間がかかってしまっている場合には、ツールを上手く活用することをおすすめします。効率的に社内のデータ収集や分析が可能になるため、ツールの導入もぜひ検討してみてください。

参考

*1:各種書式ダウンロード 経営計画策定に役立つ各種資料について|日本政策金融公庫

Q
資金繰りとは?
A
資金繰り表を使って、会社の手元資金が不足しないように収支を管理することです。資金繰りをしていない場合、黒字倒産の危険性があります。詳しくは資金繰りとはをご覧ください。
Q
資金繰り表はいらない?
A
会社の資金繰りを把握するために、資金繰り表は必要です。決算書や税務申告では不要のため、作成していない中小企業もありますが、先を見据えた会社経営のために重要となります。詳しくは資金繰りが必要な理由をご覧ください。
Q
資金繰り表の作成に手間がかかる?
A
はじめにフォーマットを用意して、作成するときは時間がかかるかもしれません。しかし毎月の入力ルールを決め、入力が習慣化されれば短ければ毎月10分ほどで入力できるようになるでしょう。詳しくは資金繰り表の作成をご覧ください。

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この記事の筆者

ライター

仲本 友晃

銀行勤務の後、ITベンチャー企業にて経理、人事労務、総務といった幅広い業務に従事。持病をきっかけに会社を退職し、持病と付き合いながら働く方法を模索してWebライターとしての活動をスタートする。現在は主に金融、労務、転職に関する記事執筆を行っている。

この記事の監修者

株式会社オロ クラウドソリューション事業部 マーケティンググループ長/Reformaチーム長

吉井 惇

2013年株式会社オロに新卒入社。クラウドERP「ZAC」の新規営業、人事採用担当を歴任。現在はZACの姉妹製品「Reforma PSA」のプロダクト責任者および、「ZAC」マーケティンググループのグループ長を兼任している。

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