工数管理を記録で終わらせない 導入支援マネージャーの実践術
IT、広告、クリエイティブ、コンサル、設計業など、専門性の高い人材の稼働が事業の価値を左右する業種において、工数管理は重要なテーマのひとつです。実際、多くの企業でシステムやExcelを活用し、日々の工数を記録・蓄積しています。
一方で、「工数は記録しているものの、業務改善にどう活かせばよいのか分からない」「数字が蓄積されているだけで、現場の判断や生産性向上につながっていない」といったケースも少なくありません。
その背景には、工数データの具体的な活用方法は各社のビジネスモデルや組織運営の方針によって異なり、手探りで運用しているため、どの会社でも共通して適用できる工数データ活用の教本のようなものが無いというのが実情です。
そこで本記事では、クラウドERP「ZAC」の導入支援グループのマネージャーとして豊富な現場経験を持つ南達也氏への取材をもとに、予定工数の立て方や案件進行中のモニタリング、イレギュラー対応、将来の稼働予測など、現場のマネージャーが実務で活用できる考え方を紹介します。
工数を「つけるだけ」で終わらせず、現状把握や意思決定の材料、リスクの早期察知、チーム運営へとどう活かしていくか。そのヒントをお伝えします。
1.導入支援の役割と工数管理の重要性
オロの導入支援グループでは、ZACの受注後、お客様が本格運用に至るまでのコンサルティングおよび各種サポートを担っています。
具体的には、業務フローの整理やシステム設定、テスト稼働から本稼働までの支援、そしてプロジェクト全体の進行管理など、ERP導入プロジェクトを前進させる役割を果たしています。
業種によっては「導入支援」という部署が馴染みのない場合もありますが、組織構造でいえば製造部門に近い立ち位置です。受注案件ごとに定められた原価予算の範囲内でサービスを提供するため、システム受託開発におけるエンジニアや、クリエイティブ制作におけるデザイナーと同様に、人の稼働工数がそのまま案件の収益性に影響する部署にあたります。
こうした背景から、導入支援においては、工数の使い方やリソース配分を適切にコントロールすることが、案件の収益性を左右する重要な要素となります。
そのため、個々の工数を把握するだけでなく、組織全体として最適に配分していく視点が求められます。
南:「工数管理とキャスティングを、どれだけ精緻に行えるかが非常に重要になります」
南氏が重視している視点は、大きく次の2点です。
- 現状把握
誰がどの案件に、どの程度稼働しているのかを正確に把握すること。
- 未来のシミュレーション
今後の案件受注に対応できるかを予測し、リソースの過不足を未然に防ぐこと。 南:「こうした視点が欠けていると、『営業は受注したいが、メンバーの稼働状況が分からず判断できない』『すでに限界のメンバーに案件を割り当ててしまう』といった状況が起こりやすくなります。その結果、売上機会の損失や、チーム全体の負荷増大につながってしまうのです。」
工数管理は単なる「記録」ではなく、組織全体の意思決定を支える基盤でもあるのです。
2.予定工数の立て方
見込み顧客へ見積りを提示する段階で、ZACを導入する業務のスコープや利用するライセンスの種類・数、追加オプションの有無などの要件を整理し、導入支援プロジェクトの予定工数を算出します。
この予定工数の見積りは、大きく次の2種類に分けられます。
1.個別開発を伴わない導入案件
過去の導入実績やノウハウをもとに、シミュレーションモデルを用いて工数を算出します。ライセンス数やオプション範囲から、想定される打ち合わせ回数や作業期間を導き出し、予定工数を見積もります。 ZACはクラウド型ERPであり、個別開発を行わず、パラメータ設定によって業務に適合させるケースが多くあります。このように要件の変動幅が比較的小さい案件では、過去実績をベースとした再現性の高い見積りが可能です。
また、このシミュレーションモデルは固定されたものではありません。案件ごとの実績工数を蓄積し、「想定より工数が増減した工程はどこか」「業種や規模による差異はあるか」といった観点で振り返りを行い、継続的に調整しています。この積み重ねが、予定工数の精度を高める基盤となっています。
2.個別開発を伴う案件
標準的な設定範囲では対応が難しい要件や、個別開発が必要な場合は、案件ごとに個別見積りを行います。
この場合は、作業工程をできる限り分解し、不確実性の高い部分を明確にしたうえで予定工数を試算します。必要に応じて専門チームが関与し、難易度やリスクを踏まえながら慎重に見積りを行います。
3.プロジェクト途中の工数管理とイレギュラー対応
丁寧に予定工数を見積もっていたとしても、プロジェクトが始まれば、想定外の問い合わせや追加対応等が発生し、必ずしも計画通りに進むとは限りません。
南:「問い合わせ対応の時間や、課題を検討する時間は、プロジェクト開始時点では正確に読みきれない部分があります。どうしても、プロジェクトごとで増えていく要素は出てきますね。」
こうした前提があるからこそ、導入支援では「プロジェクト途中での工数モニタリング」を重視しています。変化を早い段階で捉え、必要に応じて体制や進め方を調整していくことが、プロジェクトを安定して進めるうえで重要になります。
①定期的なモニタリング
・日次のモニタリング
各チームのチーム長が、メンバーごとの案件工数の予実を日々確認しています。 「予定よりも早いペースで工数を消化している」「問い合わせ対応が増えている」といった変化を早期に捉え、負荷の兆候を見逃さないことが目的です。
南:「チーム長レベルでは、かなり細かく工数の予実を見ています。今どうなっているか、という現状把握は常にしています。」
・週次のモニタリング
週次では、グループ全体で工数の予実状況を確認します。 予実の乖離が大きい案件については予定工数の見直しを行い、その結果を踏まえて、後述するキャスティングの更新へとつなげていきます。
②イレギュラー発生時のサポート
問い合わせの増加や想定外の対応が発生し、予定工数を超えそうな場合に備え、あらかじめサポート体制を整えている点も特徴です。
・若手メンバーが主担当の場合
入社2〜3年目の若手メンバーが主担当となる案件では、ベテランメンバーがフォローに入れる体制を取っています。個人に負荷が集中しすぎないよう、早い段階から支援できる仕組みです。
・突発的に負荷が増えた場合
作業が特定のメンバーに集中し、チーム内でのフォローが難しい場合は、チーム長が状況を見ながら介入します。さらに必要に応じて、副グループ長やグループ長へエスカレーションし、体制の調整を行います。
このように、案件の進行に合わせて工数を継続的に把握し、イレギュラーにも柔軟に対応できる仕組みを整えることで、現場の負荷を抑えながらプロジェクト全体の安定運用を支えています。
4.案件終了後の振り返りと予実管理
製造・制作部門では、案件終了後に工数の予実データを振り返り、次回以降の改善につなげる運用が一般的に見られます。一方、導入支援では、案件が進行している段階から工数の変化を継続的に捉え、その都度対応を重ねていくスタイルを重視しています。
南:「工数管理は、終わってから評価するためのものではなく、進行中にズレを検知して手を打つための指標です。」
導入支援プロジェクトでは、案件進行中からベテラン社員やマネージャーが状況を随時確認し、必要に応じてフィードバックや軌道修正を行っています。そのため、案件終了後に大規模な反省会を行うことは多くありません。
5.マネジメントの要点は工数とキャスティングの精緻さ
案件進行中の工数モニタリングや、イレギュラー発生時のリカバリーはもちろん重要です。そのうえで南氏は、生産性と安定性の高い組織運営を実現するために最も重要なのは、「工数管理とキャスティングの精度をどこまで高められるか」だと語ります。
南:「キャスティングの精度が高ければ、現状把握だけでなく、未来のリソース管理や、需要と供給のシミュレーションまで見えるようになります。」
ここでいう「精緻なキャスティング」とは、単に予定工数を割り当てることではありません。安定した組織運営のためには、主に次の2つの視点が欠かせないといいます。
① 受注時点で、稼働可能なメンバーのリソース状況を可視化すること
② 案件の特性や難易度に応じて、適切なメンバーをアサインすること
この2つを成立させるための前提となるのが、予定工数の割り当て(キャスティング)を精度高く設計し、継続的に運用していくことです。
ZACの導入支援では、見積り段階で想定した将来の工数を、ZAC上にキャスティング情報として登録しています。さらに、メンバーが日々入力する工数実績がリアルタイムで反映されるため、最新の稼働状況を常に把握することができます。
これらのデータをエクスポートし、専用のスプレッドシートに取り込むことで、メンバーごとの工数予実や将来のリソース状況を集計・可視化しています。営業から受注見込み案件が共有された際には、このシミュレーションをもとに、空き状況や案件の難易度を踏まえながら最適なアサインを検討していきます。
そして、キャスティング運用で何より重要なのが、常に正確で最新の工数情報を反映し続けることです。プロジェクトは生き物のように変化し続けるものであり、当初の想定通りに進んでいたとしても、ひとつのイレギュラーでリソース状況は大きく変わる可能性があります。
もし工数情報の更新が遅れたままキャスティングを進めてしまうと、実際には逼迫しているメンバーを「余裕がある」と誤認したままアサインしてしまう、といった事態にもつながりかねません。その結果、個人やチームに過度な負担がかかるリスクも生じます。
こうした事態を防ぐためにも、「工数登録 → 予実集計 → キャスティングへの反映」という一連の流れを、正確かつタイムリーに回せる仕組みと運用体制を整えることが、組織全体の安定運営を支える重要なポイントとなります。
6.成長機会とアサインの関係
工数管理やキャスティングは、短期的な利益を守るためだけの仕組みではありません。南氏は、導入支援におけるキャスティングを「メンバーの成長機会を設計するための重要なマネジメント手段」と捉えています。
南:「キャスティングは、単に空いている人を埋める作業ではありません。その人が次にどんな経験を積むべきか、どこまで任せられるかを考えながらアサインを検討しています。」
導入支援では、新卒や若手メンバーがいきなり難易度の高い案件を任されることはありません。まずは先輩のフォローが入る案件や、比較的難易度の低い案件から担当し、徐々に経験を積んでいくステップを踏みます。
南:「新卒や若手メンバーは、デビュー案件、フォロー付き案件、独り立ち案件、大型案件というように、段階を踏んでアサインしています。利益は減る可能性がありますが、育成目的の体制を組み込むこともあります。」
成長を目的とした案件では、通常より多めに工数を見積もる必要があり、案件単体で見ると利益率は低くなる傾向があります。そのため、他案件の利益で全体を調整しながら、会社の収益とメンバーの成長を両立させる運用が行われています。
このように、短期的な採算だけで判断するのではなく、人材の成長を中長期的な価値として捉え、アサイン設計に反映していく点が特徴です。
こうした「数字を通じて人の成長を設計する」という考え方は、本ブログを運営する株式会社オロが出版している『ナレッジワーカー・マネジメント 業績も人もついてくる数字で語るマネジメント術』で紹介されている思想とも通じています。
まとめ
導入支援グループにおける工数管理は、単なる実績の記録にとどまるものではありません。 「現状を正しく把握すること」「将来を見据えてシミュレーションすること」「メンバーの成長機会を設計すること」という三つの視点が一体となって機能してはじめて、実務に活きる仕組みとなります。
そのためには、個別開発を伴わない導入案件と、個別開発を伴う案件を切り分けた工数の積算、案件進行中の工数・利益のモニタリング、そして経験や育成段階を踏まえたキャスティングの精緻化が欠かせません。これらを継続的に積み重ねることで、無理のないプロジェクト運営と、特定の人に依存しない体制づくりが可能になります。
また、工数管理とキャスティングの仕組みが整うことで、導入支援グループだけでなく、営業やマネジメント層も共通の数字をもとに判断できるようになります。結果として、組織全体で状況を共有しながら意思決定ができるようになり、会社として安定的に成果を出し続けられる状態へとつながっていきます。