プライベートカンパニーとパブリックカンパニーの違い

2013/8/06公開

12回にわたってIPOの概論を述べて参りましたが、IPOの意義とこれからについての私見を述べさせていただき、一旦結びとさせて頂きたいと思います。

IPOの意義

IPOあるいは株式上場という言葉は、東証マザーズやナスダック・ジャパンなどの新興市場が生まれたことなどもあり、2000年以降にはかなり広く使われるようになってきたと思います。

しかしながら、大多数の方はIPOの正確な意味を理解しているというより、何か儲かりそうなこと程度にしか理解されていないものと思われますし、社会に出るまでの教育においても、つまり大学教育においても、IPOについてはまず取り上げられることはなかったわけです。IPOとは資本主義経済の仕組みの中において最も重要なプレイヤーであるところの会社が公の存在、つまり公開企業(パブリックカンパニー)になるというきわめて重要な意味を持つにもかかわらずです。IPOはInitial Public Offering の略ですが、直訳すれば最初の公募増資となります。直訳のイメージでは日本で使われる株式上場の意味には受け取りにくいでしょう。株式上場を直訳したものとしてはGoing Public という言葉がありますが、海外でも日本でも株式上場の意味の英語としてはIPOが一般的です。これは株式上場するということは、一般投資家たちに対して広く株を買ってもらう行為ですから、直接的に行われる行為そのものがIPOということだからでしょう。

現在の世界経済の多勢を占める市場主義経済下においては、その主役は経済活動を行う単位となる会社組織であり、その会社は個人企業(プライベートカンパニー)と公開企業(パブリックカンパニー)に大別することが出来ます。

一般にパブリックカンパニーといえば上場会社を指すこととなりますが、未上場であっても例えば従業員数が100名以上となるなど、ある程度以上の規模に達すると、その社会的影響から上場しているかいないかに関わらず、パブリックカンパニー的になってくるということがいえます。それだけの数の家族を経済的に支え、取引先等とも支えあうということなので、経営者はそういった社会的影響を考えてガバナンスをしていかなければ、未上場といえども安定した経営の継続は難しいといえるでしょう。単純にはいえないのですが、あえて例えるなら、プライベートカンパニーが大型化した会社は専制君主国であり、パブリックカンパニーは共和国という見方も出来るでしょう。プライベートカンパニーではオーナーの考え方や良し悪しが、そこで生活する人全てに影響します。良いオーナーのプライベートカンパニーは従業員にとってはパブリックカンパニー以上の可能性もあります。つまり利益追求を最優先せずに、従業員の生活を最優先するオーナーもいるからです。ただし、利益が本当に出なくなって、会社の存続が厳しくなってきたら、それも難しいでしょう。重要なことはプライベートカンパニーであってもある程度以上の規模に達した場合、上場会社同様に社会に対する責任は発生しているのであり、未上場のオーナー企業であってもそのことは認識すべきだということです。私どもが訪問した未上場会社の中には、上場したくない理由に経営判断の自由度を上げられるケースが多いですが、この自由度という意味は利益最優先からの自由度という意味なら良いのですが、オーナー経営者が好き勝手に公私混同できるという意味であれば、その会社が大きくなった場合に破綻する可能性が高まるということがいえるでしょう。

プライベートカンパニーにおいては専制君主国同様、世代の交代は政治(ガバナンス)の変化を意味しますから、前オーナー経営者が従業員優先の施策を行っていたとしても、それが継続するという保証は何もありません。一方パブリックカンパニーにおいては、情報開示により経営の透明性が求められ、その上で株主・投資家を含めた利害関係者のバランスが図られることになります。当然株主の利害は会社の利益追求による株価の向上にありますから、パブリックカンパニーにおいては利益追求に対するプレッシャーが働くこととなります。もっとも利益は、その会社が生み出だした価値に対する評価という見方もあり、利益の大きい会社ほど存在意義のある仕事をしている証であるともいえるので、利益追求に対するプレッシャーは良くないことと言い切れるものではありません。

IPOの今後

日本の会社は100万社あるといわれていますが、実際のところ活動している会社はその1/10くらいかもしれません。もし日本の会社の数が10万社とすれば、日本人1200人に対して1社ということになります。一方上場会社の数は3500社程度です。株式会社の全数である10万社から考えれば上場会社数は3~4%ということになります。このように、株式会社全体から見れば上場会社は非常に僅かな数に過ぎません。しかし日本を代表する会社のほとんどは上場会社であり、かつこれらの会社の中でも特に上位の500社程度が日本経済を支えているといっても過言ではないでしょう。

経済が活性化するためには新陳代謝が不可欠ですから3500社の上場会社のストックに対しては、合併や上場廃止基準に基づく上場廃止を考えると、年間100社程度の新規公開は必要といえるでしょう。上場会社のストックの数の減少は結果として日本経済の下降とデータ的に一致することとなりました。つまり新しい上場会社を多く生み出していけるような経済社会の実現ということと日本経済の発展ということはほぼ直結した話と考えて良いのでしょう。

2012年は46社、2013年は60社程度、2014年には株価の回復を背景に100社以上の新規上場が見込まれるといわれております。これまで述べてきたように新規上場会社数は単に多ければ良いという単純なものではありません。問題会社が上場することにより、投資家に損害を与えれば投資意欲の減退を招きひいては、金融市場のシュリンクを引き起こすからです。

適切な社内管理体制をもった多くの会社が上場審査を突破し、証券市場が日本経済の発展に資することを願って本コラムの結びとさせて頂きたいと思います。

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この記事の筆者

日之出監査法人 統括代表社員 公認会計士

小田 哲生

公認会計士。1979年より朝日会計社(現あずさ監査法人)に勤務。2002年より2009年まで代表社員。1985年以降はIPOを専門に扱う企業公開部に所属。20年以上に渡り、IPO業務推進の中心的役割を果たす。関与先でIPOを達成した企業数は30社以上となるが、特に2005年から2008年の4年間にかけて上場を達成した企業は15社となり、公認会計士業界では最多となる。東証、JASDAQ、ヘラクレスなどの主催するセミナーでも数多くの講師を務める。2009年上場準備・中堅企業のための日之出監査法人を立ち上げ、現在に至る。

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