【比較表付き】 準委任契約とは?請負契約や派遣契約との違いをわかりやすく解説

2025/11/28公開
「準委任契約と請負契約、言葉は似ているけど何が違うの?」「よく聞くSES(システムエンジニアリングサービス)って、準委任契約のこと?」「自分の業務委託契約はどちらに当てはまるんだろう?」といった疑問や不安を抱えていませんか。業務委託契約の契約形態の違いを正しく理解していないと思わぬトラブルに発展する恐れがあります。
この記事では準委任契約の基本から、他の契約形態との明確な違い、契約を結ぶ際のメリット・デメリット、注意すべきポイントまで解説。比較表を交えて誰にでもわかりやすく紹介します。
この記事を読み終える頃には、契約形態の違いに関するモヤモヤが解消され、自社の状況に最適な契約はどれか、自信をもって契約内容を判断できるようになるでしょう。
目次
準委任契約とは?「業務の遂行」を目的とする契約
準委任契約の定義から、善管注意義務、委任契約との違い、報酬の支払い方による違いまでわかりやすく紹介します。
準委任契約の定義
準委任契約とは、特定の業務遂行そのものを目的とする契約です。業務委託契約の際に広く用いられます。
重要なポイントは、仕事の「完成」を約束するものではなく、専門的な知識やスキルを用いて、誠実に業務を行うことが求められること(善管注意義務)です。例えば、システムの運用・保守やコンサルティング業務などがこれに当てはまります。多くのビジネスシーンで結ばれる業務委託契約は、この準委任契約に当てはまります。
受任者が負う「善管注意義務」とは?
これは「善良な管理者の注意義務」の略で、「その職業や専門家としての能力、社会的地位などから考えて、一般的に期待されるレベルの注意を払って業務を遂行する義務」を意味します。
委任契約との違いは「法律行為」か「事実行為」か
準委任契約とよく似た言葉に「委任契約」があります。この2つの違いは、委託する業務内容が「法律行為」か「事実行為」かという点です。
委任契約とは
法律行為を委託する契約。例えば、弁護士に訴訟代理を依頼する場合や、税理士に税務申告を依頼する場合などが該当します。
つまり、専門家として「常識的に考えて、やるべきことはきちんとやる」という義務のことです。この義務を怠った結果、発注者に損害を与えた場合は、損害賠償責任を問われる可能性があります。
準委任契約の2つの種類
準委任契約には実務上「履行割合型」と「成果完成型」の2種類があります。どちらのタイプかによって報酬の支払い方が異なります。
履行割合型とは?
履行割合型は、業務を行った時間や工数など、業務の履行の割合に応じて報酬が支払われる契約です。
例えば、「月額〇〇円でコンサルティングを行う」「時給〇〇円で事務作業を代行する」といったケースが該当します。業務が完了していなくても、すでに行った業務の割合に応じて報酬を請求できるのが特徴です。多くの準委任契約がこの形式をとっています。
成果完成型とは?
成果完成型は、業務の成果として特定の成果物を納品することによって報酬が支払われる契約です。
例えば、「Webサイトの記事を1本作成したら〇〇円」「調査レポートを提出したら〇〇円」といったケースが該当します。成果物が納品されなければ、原則として報酬は発生しません。
【注意】成果完成型の「完成責任」とは
ここで非常に重要な注意点があります。成果完成型の準委任契約は、請負契約と混同されやすいですが、原則として受注者に成果物を「完成させる義務」はありません。
あくまで、善管注意義務をもって業務を遂行した結果として、成果物が完成した場合に報酬が発生するという契約です。万が一、最善を尽くしても成果物が完成しなかった場合、受注者は責任を負いません。ただし、成果完成型契約では成果物の納品が報酬支払いの条件となるため、完成しなかった場合は原則として報酬は支払われません。この点が、成果物の「完成」を約束する請負契約との決定的な違いです。
契約上で完成義務を明確に定めると請負に近い効果を生じるため、報酬条項や履行義務は明確に書くことが重要です。
【比較表】準委任契約・請負契約・派遣契約の違い
これまでの違いをまとめると、以下の表のようになります。
| 契約形態 | 準委任契約 | 請負契約 | 派遣契約 |
|---|---|---|---|
| 目的 | 業務の遂行 | 仕事の完成 | 労働力の提供 |
| 指揮命令権 | 受注者 | 受注者 | 派遣先企業 |
| 報酬の対象 | 業務の遂行 (時間・工数など) |
完成した成果物 | 労働時間 |
| 契約不適合責任 | 原則なし | あり | なし |
| 当事者間の関係 | 発注者 ⇔ 受注者 | 発注者 ⇔ 受注者 | 派遣先 ⇔ 派遣元⇔ 労働者 |
準委任契約と混同しやすい「請負契約」「派遣契約」との違いを明確に理解することは、トラブルを避ける上で非常に重要です。それぞれの違いを比較してみましょう。
準委任契約と請負契約の違いは、「契約の目的」で、準委任契約と派遣契約の違いは「発注者(クライアント)に"指揮命令権"はあるか」です。
準委任契約
目的は「業務の遂行」。受注者は専門家として誠実に業務を行う義務(善管注意義務)を負いますが、仕事の完成や成果物の品質を保証する義務(契約不適合責任)は原則として負いません。 発注者と受注者は対等な関係です。原則として、発注者は受注者に対して、業務の進め方について具体的な指示や命令をすることはできません。業務の進め方は受注者の裁量に委ねられます。契約で業務範囲や方法を定めれば発注者からの指示は可能となりますが、日常的・具体的な指揮命令が及ぶ実態になると後述する偽装請負の問題が生じます。
請負契約
目的は「成果物の完成」。受注者は成果物を完成させて納品する義務を負います。納品された成果物に欠陥があった場合、受注者は修正や損害賠償などの責任(契約不適合責任)を負います。準委任契約と同様に発注者は受注者に対して、業務の進め方について具体的な指示や命令をすることはできません。
派遣契約
目的は「労働力の提供」。 労働者は派遣会社と雇用契約を結び、派遣先企業で業務を行います。派遣先企業(発注者)は、派遣されてきた労働者に対して直接的な指揮命令を行えます。
【職種別】準委任契約がよく使われる具体的なケース
準委任契約は、さまざまな職種や業務で活用されています。ここでは具体的なケースを見ていきましょう。
エンジニア(SES契約)
IT業界でよく聞くSES(System Engineering Service)契約は、準委任契約の代表例です。「エンジニアのスキルや労働力を一定期間提供する」ことを目的としており、システムの「完成」を目的とはしていません。そのため、クライアント先に常駐して開発業務を行う場合でも、日常的・具体的な指揮命令や時間管理が行われると、偽装請負に問われるリスクがあります。実態に注意してください。
コンサルタント・顧問
経営コンサルタントや技術顧問との契約も、準委任契約が一般的です。特定の成果物の完成を約束するのではなく、専門的な知見に基づいた助言や分析といった役務を提供すること自体が目的となるためです。
Webサイトの運用・保守
Webサイトのコンテンツ更新、サーバー監視、セキュリティ対策といった継続的な運用・保守業務も準委任契約を選択されるケースがあります。「毎月〇〇時間、サイトのメンテナンスを行う」といった形で契約が結ばれます。
事務代行業務
経理処理、データ入力、スケジュール管理といった事務代行業務も遂行そのものを目的とするため、準委任契約が用いられることが多いです。
準委任契約を締結するメリット
準委任契約は、発注者側・受注者側双方にメリットがあります。
【発注者側】専門的な業務を柔軟に依頼できる
自社にノウハウがない専門的な業務を、必要な期間だけ外部のプロフェッショナルに依頼できます。社員を雇用するよりもコストを抑えつつ、高い専門性を活用できます。
【発注者側】仕様変更などに臨機応変に対応しやすい
請負契約と違い、成果物の完成が目的ではないため、プロジェクトの途中で仕様変更や業務内容の調整が必要になった場合でも、柔軟に対応を依頼しやすいです。
【受注者側】自分の裁量で業務を進められる
発注者からの細かな指揮命令を受けないため、納期やルール内で原則、業務の進め方や時間配分などを自分の裁量で決められます。専門家としてのスキルを活かし、自由度の高い働き方が可能です。
【受注者側】契約不適合責任を負わない
請負契約とは異なり、原則として成果物の完成義務や契約不適合責任を負いません。善管注意義務を果たしていれば、結果的に期待された成果が出なかったとしても、法的な責任を問われるリスクが低いと言えるでしょう。
準委任契約のデメリットと注意点
メリットがある一方、準委任契約には注意すべきデメリットも存在します。
知らないと危険な「偽装請負」とは?
準委任契約や請負契約を結んでいるにもかかわらず、実態として発注者が受注者に対して指揮命令を行っている事態を「偽装請負」と言います。これは労働者派遣法などで禁止されている違法行為です。
偽装請負と判断された場合、発注者側は行政指導や罰則の対象となるだけでなく、受注者との間で雇用関係があるとみなされ、社会保険料の負担などが発生するリスクがあります。契約形態と業務の実態が一致しているか、つねに注意が必要です。
【発注者側】原則として指揮命令ができない
受注者に対して業務の進め方を細かく指示したり、作業時間を管理したりすることはできません。業務の進捗や品質をコントロールしにくいため、進捗状況を把握するには定期的な報告を義務付けるなどの工夫が必要です。
【発注者側】成果物について保証されない可能性がある
準委任契約は業務の遂行が目的のため、期待していた成果物が必ずしも得られるとは限りません。とくに成果完成型でない場合、業務時間分の報酬は発生するものの、具体的なアウトプットがないという状況も起こりえます。
【受注者側】報酬は安定しない場合がある
とくに履行割合型の契約で、稼働時間に応じて報酬が決まる場合、発注者側の都合で業務量が変動すると、月々の収入が不安定になる可能性があります。最低稼働時間を設定するなど、契約内容でリスクをヘッジすることが重要です。
トラブル回避!準委任契約書に必ず記載すべき10の項目
発注者が準委任契約を結ぶ際は、後のトラブルを避けるために、必ず契約書を作成し、以下の項目を明確に定めておきましょう。なお、法令・判例は契約の実態・個別事情で解釈が変わります。特にシステム開発や長期常駐を想定する場合は、契約書の文言だけでなく、業務の実態(指揮命令関係や報酬の支払基準)を整合させることが重要です。必要に合わせて弁護士や社労士に相談してください。
①業務の内容
委託する業務の範囲を、できる限り具体的かつ明確に記載します。「どこからどこまでが業務範囲か」を双方で合意しておくことが最も重要です。
②契約形態(準委任契約であることの明記)
この契約が、仕事を完成させる義務を負う「請負契約」ではなく、「準委任契約」であることを明確に記載します。
③ 契約の種類(履行割合型 or 成果完成型)
報酬の支払い基準を明確にするため、「履行割合型」なのか「成果完成型」なのかを明記します。
④報酬額と支払い条件
報酬の具体的な金額、計算方法(月額、時給等)、支払いの時期、支払い方法(銀行振込等)を定めます。
⑤業務の報告義務
受注者が発注者に対して、どのくらいの頻度で、どのような方法(メール、定例会議など)で業務の進捗を報告する義務があるのかを定めます。
⑥契約期間
契約の開始日と終了日を明記します。自動更新の有無や、更新する場合の条件についても定めておくとよいでしょう。
⑦知的財産権の帰属
業務の過程で生じた成果物(レポート、プログラムなど)の著作権などの知的財産権が、発注者と受注者のどちらに帰属するのかを明確にします。
⑧秘密保持義務
業務を通じて知りえた相手方の機密情報を、第三者に漏洩しないことを約束する条項です。
⑨契約解除の条件
どのような場合に契約を解除できるのか、その条件(契約違反、支払い遅延など)と手続きについて定めます。民法の規定により、発注者・受注者のどちらからでも、いつでも契約を解除できます。 ただし、相手方にとって不利な時期に解除した場合や、解除した側に責任がある場合は、相手方に対して損害賠償責任を負う可能性があります。
⑩損害賠償
当事者の一方が契約に違反し、相手方に損害を与えた場合の賠償責任の範囲や上限額について定めます。
このほかにも、職種や状況によって定めるべき内容は異なります。契約締結後も、現場担当者を含めての契約内容の認識・理解が欠かせません。
まとめ
最後に、準委任契約における重要なポイントを振り返ります。
・準委任契約は成果物の「完成」ではなく「業務の遂行」が目的の契約
・ 請負契約との最大の違いは「仕事の完成義務」と「契約不適合責任」の有無
・派遣契約との違いは「指揮命令権」の有無であり、「偽装請負」にならないよう注意が必要
・ トラブルを避けるためには、契約書で業務範囲や報酬、知的財産権などを明確にすることが鍵
業務委託を行う際には、その業務の性質が「遂行」を目的とするのか、「完成」を目的とするのかを慎重に検討する必要があります。契約形態を正しく理解し、自社の状況に合った契約を結ぶことが重要です。リスクを最小限に抑え、外部パートナーとの良好な関係を築き、円滑な業務委託を実現しましょう。
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