未成工事支出金とは?効率的な原価管理の方法を紹介

2025/5/16公開
建設業は独自の会計処理となっており、会計項目も複雑で他業種と異なります。それゆえ、会計処理がどんぶり勘定になりやすく、注意が必要です。なかでも「未成工事支出金」の項目は建設業特有です。
会計処理が複雑であっても、健全な経営を維持するためには、正確な会計処理が欠かせません。そこで本記事では、未成工事支出金の概要と会計処理の方法について詳しく解説します。原価管理を効率化するポイントも紹介するので、建設業の会計処理にお悩みの方はぜひ参考にしてください。
目次
未成工事支出金とは
未成工事支出金とは、完成していない工事における支出と費用を指す建設業会計特有の勘定科目です。長期間にわたる工事の収支を管理し、進捗に応じて収益や費用を認識する際に用いられます。他業種で該当する勘定科目は「仕掛品」です。
工事にかかった費用は、完成するまで「棚卸資産」として扱われます。建設業界の工事は一般的に、一年以上の長い期間で行われます。しかし、業績は一会計期間ごと(通常1年)で公表する必要があるため、仕掛かり中の工事も一年で区切って利益や費用算出を行わなければなりません。
そこで、売上に計上できない未完成工事に関する支出を「未成工事支出金」として会計処理します。これにより、工事の進行状況に応じた適切な収益認識が可能となるのです。
進行状況に応じた収益認識について、詳しくはこちらの記事を参照してください。
未成工事支出金は、以下の費用のことを指します。
- 未成工事支出金(未完成の工事における支出と費用)=材料費+労務費+外注費+経費
つまり、完成していない工事にかかった費用はすべて未成工事支出金として計上します。これには、材料費や労務費に加え、外注費や関連経費も含まれるため、精緻な会計処理を行うには複数の費用の正確な記録と管理が重要です。
完成するまでは棚卸資産として計上される理由
上述したように、未成工事支出金は、工事が完成するまで棚卸資産として扱います。それは、工事中の建物の所有権がまだ建築会社にある状態だからです。建物が未完成で、発注者への引き渡しが完了していない場合、建設会社はその建物を自社の資産とみなします。このため、建物の建設にかかった費用は暫定的に建物の価値として認識され、棚卸資産に計上されます。
棚卸資産について、詳しくはこちらの記事を参照してください。
なぜ建設業会計に未成工事支出金は必要なのか
建設業の会計に「未成工事支出金」は不可欠です。その理由を、業界の特徴を踏まえて解説します。
工事期間と会計期間のズレを調整するため
長期にわたる工事では、費用の発生時期と売上計上のタイミングが異なるため、ひとつの工事に対する売上と費用の計上にズレが生じます。例えば、進行中の工事が完了するまで売上を計上できず、その間に発生した費用が計上されると、全体の業績が不正確になってしまいます。このようなズレが生じると、正しい業績の判断ができなくなってしまうのです。
会計期間 | 売上 | 原価(工事費用) | 損益 |
---|---|---|---|
1期目(工事進行中) | 0円 | 800万円 | -800万円 |
2期目(工事完了) | 1,500万円 | 200万円 | +1,300万円 |
実際には、工事全体で費用1,000万円・売上1,500万円のため、トータルでは+500万円の利益になるはずです。 ただし、会計期間ごとのズレによって、実態とは異なる損益が出てしまいます。
工事費用の正確な把握と管理のため
工事の売上に対して正確な利益を把握するためには、ひとつのプロジェクトにかかったすべての費用を適切に管理する必要があります。特に建設業では、工事が長期にわたることが多く、工事の進捗と会計上の締め(会計期間)が一致しないケースがほとんどです。この「工事期間と会計期間のズレ」に対応するためには、いつ・どのような費用が・どれだけ発生したのかを正確に把握し、工事の進捗に応じて管理することが重要です。
このズレを調整するために用いられるのが「未成工事支出金」です。工事が完了するまでの間に発生した費用を、一時的に資産として計上し、工事の完了後に売上と対応させて費用計上することで、収益と費用を同じ会計期間に対応させることができます。そのため、未成工事支出金は建設業における適切な利益認識を実現する上で、欠かせない会計項目となっています。
また、未成工事支出金を活用することで、工事の進捗状況に応じた費用の可視化が進み、プロジェクトの予算消化状況や採算性の把握にもつながります。
建設業会計がどんぶり勘定になりやすい理由
建設業界の会計処理は、どんぶり勘定になりやすいと言われています。その理由は、主に以下の3点です。
- そもそも扱うお金の単位が大きいため、細かなコストの把握が大雑把になりがちなため
- 最終的に帳尻を合わせればいいと考えて、月次の利益管理が不十分になってしまうため
- 建設業特有の勘定科目「未成工事支出金」に慣れていない場合があるため
建設業は一つのプロジェクトで大きな金額が動くため、細かい金額を丸めて考えがちです。また、工事のステータスと進捗、それぞれにかかったコストを月次で適切に仕分けできていないと、工事原価の正確な把握が難しくなります。
決算のタイミングで正確に把握できるのはもちろんですが、年に一度しか利益を確定できないと、赤字のまま新たな工事を受注してしまう恐れがあります。
さらに、「未成工事支出金」の処理が正確に行われなければ、売上と費用を適切に結びつけられません。どんぶり勘定だと、税務調査で指摘されて修正申告が必要になる場合もあるため、適切なコスト管理が非常に重要です。
また、作業ミスによる過失でも「不適切な会計処理」が発生しまうと、会社の信頼に関わる問題となります。建設業会計は、どんぶり勘定になりやすいからこそ、正確に管理できる体制を築きましょう。
未成工事支出金の仕訳例
未成工事支出金の仕訳は、工事のステータスや支払い方法によって異なります。ここでは、一般的な仕訳例を紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
材料費を現金で支払った場合
工事の材料費を現金で10万円払った場合の仕訳は以下のようになります。
借方 | 金額(円) | 貸方 | 金額(円) |
---|---|---|---|
未成工事支出金 | 100,000 | 現金 | 100,000 |
外注費の請求書が届いた場合
工事で外注業者に作業を依頼し、20万円の請求書が届いたときの仕訳は以下のようになります。
借方 | 金額(円) | 貸方 | 金額(円) |
---|---|---|---|
未成工事支出金 | 200,000 | 工事未払金 | 200,000 |
工事が完了し、未成工事支出金を費用計上する場合
工事完了時、未成工事支出金として支払った上記2件を費用計上する場合は、以下のようになります。
借方 | 金額(円) | 貸方 | 金額(円) |
---|---|---|---|
材料費 | 100,000 | 未成工事支出金 | 100,000 |
外注費 | 200,000 | 未成工事支出金 | 200,000 |
未成工事支出金を正確に管理する方法
未成工事支出金を正確に管理するためには、細かい原価管理が求められます。正確に細かく管理するためには、以下のポイントが重要です。
Excelやシステムなどを活用した正確なデータの収集
Excelやシステムによってデータを正確に収集、管理することが肝要です。プロジェクトごとに発生した支出や原価(労務費+外注費+経費)、作業進捗を正確に記録することが欠かせません。
費用が発生するたび、適切なタイミングで記録することで、後々の不正確な計上を防げます。Excelやシステムを使用し、支出項目ごとに分けて記録していきましょう。
定期的な見直し
工事進捗や支出状況を定期的に見直すことは、データに不整合や漏れがないかを早期に発見するために重要です。例えば、月次や四半期ごとに見直しのタイミングを設定し、その度に進捗や支出をチェックすることで、データの不整合や計上漏れなどの問題を未然に防げます。見直しの頻度やタイミングをあらかじめ設定し、そのタイミングを守って見直しを行いましょう。
プロジェクト別の予実管理を行う
プロジェクト別に予実管理を行うことで、プロジェクトの進捗状況と積み重なるコストをリアルタイムで把握できます。そのなかで、未成工事支出金として計上すべき支出が計画通りかどうかも確認できます。
未成工事支出金が曖昧なままだと、適切なタイミングで利益と費用を一致させられず、工事終了後に赤字が判明することがあります。そのため、リアルタイムでの管理が非常に重要です。
未成工事支出金を正確に管理するならZACがおすすめ
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工事受注日以降、発生した費用は「仕掛品」として自動計算され、プロジェクトが売上確定したタイミングで自動的に「工事原価」へ振り替えられるため、工事期間中の未成工事支出金を正確に計上できます。これにより、未成工事支出金の効率的な管理、そして経営状況の可視化と業務効率化が実現可能です。
まとめ
「未成工事支出金」は、建設業特有の勘定科目です。工事(プロジェクト)が長期にわたるという特性上、売上が確定するまでの間に発生した費用は、未成工事支出金として正確に把握・管理する必要があります。
そこで重要なのが、システムやExcelを使って未成工事支出金を適切に管理し、定期的な見直しとプロジェクト別の予実管理を行うことです。特に、プロジェクト型ビジネスに特化したシステム『ZAC』は、未成工事支出金の管理を効率的かつ正確にサポートできるのでおすすめです。
どんぶり勘定による赤字受注や修正申告を防ぐためにも、システムを活用し、未成工事支出金を適切に把握・管理しましょう。