プロフェッショナルコラム

後戻りできない!上場における資本政策の重要ポイント 第4回 ~資本政策の手法

 前回までにご説明した方法により資本対策の目的を実現するために、いろいろな手法を使うことになります。それぞれの手法には特徴があり、資本政策における効果が異なります。また、税務上留意しなければならない点もあります。これらを踏まえて目的のために最適な組み合わせで手法を選択していくことが必要となります。

 そこで今回は、代表的な資本政策の手法をご紹介していきたいと思います。

1.株式譲渡

 株式譲渡は既存株主が自己の保有する株式を他者(個人または法人)へ売却又は贈与することをいいます。定款で譲渡制限を定めている取締役会設置会社においては、取締役会決議で承認することにより実行できます。
 発行済の株式の移動なので株式総数を増加させることなく実施することができます。このため株式譲渡は、株主の持株比率を大きく変動させる効果があります。


 株式譲渡は資本政策の様々な局面で実施されますが、代表的には次の3つのパターンがあります。

①オーナーの持株比率を上げるための株式譲渡
 オーナーが既存の他の株主から株式を買い取れば、増資を引受けるよりも効果的に自己の持株比率を上昇させることができます。また、複数の親族に分散している株式や名義株を整理するためにも有効です。

②既存株主の出口としての株式譲渡
 既存株主の事情により株式をオーナーや経営陣に譲渡して退出していく場合があります。その買取価格についてはケースバイケースで交渉により決定するのでしょうが、課税関係が生じないように留意する必要があります。また、上場に際して障害となる可能性がある株主からは早めに株式を譲り受けることを検討するとよいでしょう。

③役員、従業員に対する株式譲渡
 役員や従業員に株式を保有させる場合に、第三者割当増資によるよりも取締役会決議により機動的に実施ができるために株式譲渡を行うことがあります。上記①の逆で、オーナーからの譲渡でオーナーの持株比率が低下することになるので資本政策全体としての妥当性をよく検討する必要があります。

2.第三者割当増資

 第三者割当増資とは、特定の第三者を決めて新株を発行する増資形態をいい、会社法上の公開会社以外の会社では株主総会の特別決議により承認する必要があります。この割り当てる特定の第三者にはオーナー・役員・従業員・従業員持株会・取引先・金融機関・ベンチャーキャピタル等があります。第三者割当増資を行うと、会社には資金が払い込まれ、発行済株式が増加します。この結果、既存株主の持株比率が変動します。第三者割当増資は原則として時価で行われます。


第三者割当増資は代表的には次の3つの局面で実施されます。

①オーナーの持株比率を上げるための第三者割当増資
 第三者割当増資を実施することでオーナーの持株比率を上昇させることができます。この場合、オーナーの追加出資可能金額には限界があるでしょうから、株式時価の安い資本政策の前半に実施すると効果的です。どの程度の出資をしなければならないかは資本政策全体のシミュレーションにより判断されます。

②特定の者に株式を保有させるための第三者割当増資
 役員・従業員に自社株を保有してもらうことで帰属意識を高めたり、従業員持株会に割り当てて従業員の福利厚生に利用したりすることがあります。また取引先や金融機関に株式を保有してもらうことで関係強化を図ることも考えられます。この場合にはそれほど多くの株式を割り当てることはないと思われます。目的に応じて資本政策のどの時点で行うべきかを考える必要があります。

③資金調達のための第三者割当増資
 資金調達を主目的として比較的多額の増資を行います。割当先としては、ベンチャーキャピタルや事業会社が一般的です。多くの株式を新規発行することになるので、既存株主の持株比率が大きく下落する可能性があります。したがって、この第三者割当増資を実施する前にあらかじめオーナー等の持株比率を高めておく必要があります。このためのシミュレーションが資本政策の重要なテーマの一つです。

3.株主割当増資

 株主割当増資とは、既存の株主に対しそれぞれの持株比率にしたがって新株を発行する増資形態をいいます。
 株主割当増資は既存株主の持株比率が変動しないため、時価よりも低い価格で実施しても原則として課税関係は発生しません。このため、一般的には資本政策の初期段階でオーナー一族を中心とした株主による追加出資を安い単価で実施する場合に用いられることが多いようです。
 なお、株主割当増資であっても失権株が生じると課税関係が発生することがありますので注意が必要です。

4.財産保全会社

 オーナー一族の相続対策として財産保全会社を設立し、保有株式の一部を当該会社に譲渡することがあります。オーナーが上場会社の株式を直接保有している場合、相続時に株式が相続人に分散されてしまう可能性がありますが、財産保全会社を介して間接的に保有することで株式の分散を防ぐことができます。
 また、上場株式の相続税評価額は相続時の市場価格によることになりますが、非上場の財産保全会社の株式は純資産価額方式により評価されますので、一般的には相続税評価額を低く抑えることができます。

5.自己株式の取得

 自己株式の取得は、分配可能額の範囲内で株主総会の特別決議により実施することができます。自己株式の取得は発行会社が既存株主から株式を買い取ることで、発行会社が自らの資金で株主の持株比率を変動させることができます。
 自己株式の取得を行うと譲渡株主にみなし配当課税が発生することがありますので注意が必要です。

6.株式分割

 株式分割は、発行済株式を一定割合で分割して既存株主に持株比率に応じて新株を発行することをいいます。株式数は増えますが資金の払込みは一切なく、資本金も変わりません。例えば1株を5株に分割すれば、時価10,000円の株式を100株保有していた株主は時価2,000円の株式を500株保有することになります。もちろん、各株主の持株比率に変動も生じません。株式分割は上場の直前に、高すぎる株価を低く調整し、市場流通性を高めるために行われることがほとんどです。

 また、発行済株式数が少なく1株あたりの株価が高い会社で株式を従業員に少しだけ保有させたい場合にも用いられます。例えば、1株あたりの時価が1,000,000円の株式の場合、従業員の負担が大きすぎるため、株式分割して1株あたりの株価を引き下げることがあります(仮に1株を5株に分割すれば1株あたり200,000円に引き下がります)。

蜂屋 浩一

写真:蜂屋 浩一

朝日ビジネスソリューション株式会社
朝日ビジネスソリューション株式会社 代表取締役 公認会計士


大卒後、公認会計士試験に合格し大手監査法人へ入所。株式上場支援の部門に異動し、多くの上場案件に携わる。2002年朝日税理士法人立ち上げに参画。上場企業から上場準備企業、中堅・中小企まで幅広くサービスを提供している。朝日税理士法人の運営と並行し、朝日ビジネスソリューション株式会社にて代表取締役を務める。税務・会計、組織再編、株式上場支援、事業承継など幅広いジャンルのコンサルティングで活躍中。

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