お電話でのお問い合わせ

0120-973-866

従業員持株会とストックオプションの違い

従業員持株会とストックオプションの違い
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • RSS2.0
  • ATOM

2013/3/05公開

前回まで資本政策の概論として資本政策の立て方をケース・スタディーを通じて説明してまいりました。今回から4回にわたり資本政策に関連する各論を解説していきます。

目次

    従業員持株会とストックオプションの相違

    IPOに際して従業員にインセンティブを供与する方法として一般的に従業員持株会とストックオプションの手法が用いられます。

    従業員持株会とは従業員のための福利厚生の一環として行われるもので、従業員持株会規則に則り、毎月の給料から天引きされる積立額については、機会均等則に従って入社年次と職位が同じものは同一の条件で扱われるようにしなければなりません。天引きされた積立額に対して会社は10%とかの補助金を加えることが通常行われます。積み立てられた額は上場前の第三者割当増資や上場時の公募株、上場後は市場から定期的に買い付けることとなります。未上場時に積み立てをしていた従業員が退職した場合、その保有していた従業員持株会としての株は、従業員持株会が従業員持株会規則に定められた額で買い取ることになります。このことによって従業員が退社時に株を売り渡さなければならないこととなり、会社と関係がなくなった株主が未上場段階で外部に拡散していくのを防ぐことが出来ます。このような従業員持株会規則における取り決めを「流出防止条項」といいます。

    一方同じくインセンティブプランであるストックオプションは従業員持株会とどう異なるのでしょうか。まず、ストックオプションはその付与対象者を従業員に限定することはしません。したがって役員や外部の利害関係者に対しても付与することが可能です。しかも機会均等に付与する必要はなく、入社時期や職位に関係なく能力の有る者、実績を残した者、将来的な期待度が非常に高い者などに付与することが可能です。

    次に、ストックオプションは株式の現物ではなくその権利行使価格にて株式を買い取る権利ですから、付与されるときには通常ほとんど金銭支出を必要としません。しかし権利を行使して株式を取得する際には資金が必要となりますので、通常は権利行使による取得とほぼ同時に売却をしてキャピタルゲインを確定させることとなるでしょう。特に税制非適確なストックオプションの場合権利行使時の株価と行使価格の差を給与所得と認定され所得税課税されることになりますから、行使後保有することによって株価が下落した場合などは、実際には支払い源泉となるような資金がないにもかかわらず税金の納付だけが必要となるでしょう。したがって自社株を保有し続けてもらうためのプランとしては最初から資金を捻出してもらって現物株式を取得する従業員持株会の方が合っていて、ストックオプションの方は所得の補完的意味合いが強いといえるでしょう。

    なお、ストックオプションについても権利を消失する事由として付与契約書に「従業員、あるいは役員としての地位を失った場合」、などという条項を設けることによって流出防止を行うことは可能です。

    さらにストックオプションは契約に基づく権利ですので、契約書の中に定めを設けることによって、たとえば「株価が公募価格を下回っている場合は権利行使することが出来ない。」などとすることも可能です。もしストックオプションの行使価格が10万円で公募価格が100万円であったとして株価が50万円まで下がっているのにストックオプション保有者がまだキャピタルゲインがあるので次々に行使し売却したとすれば、公募株を取得した一般投資家は心証を害することになるでしょうから、そうした事態に備えるとともに、オプションをもらった者として株価が公募価格を上回るように業績向上に向けて努力すべきという意味合いも兼ねていると捉えることも出来るでしょう。

    なお、ESOP(Employee Stock Ownership Plan)は米国の制度であり、従業員の報酬制度の一環で企業が税務上損金扱いし原則全従業員を対象として自社株を配分する制度で退職時まで引出不可とされるものです。日本には同様の制度は存在しません。日本の制度である従業員持株会をあえて英語的に訳すならESOC(Employee Stock Ownership Community)とすべきでしょう。

    従業員持株会とストックオプションの違い

    ストックオプションと税制適格

    ストックオプションを付与する側としては、付与した者に対して少なくとも株式上場時までその実現に向けて協働してもらうことを期待して付与するわけですから、途中で辞めた場合にはストックオプションは失効し、当然第三者に対する譲渡も禁止するというのが自然な対応となり、通常ストックオプションの付与契約にそのように織り込みます。国税庁ではこの譲渡禁止性ということに着目し、こうしたストックオプションは株式が上場され権利行使されるまでは本来譲渡可能性を最大の特徴とする有価証券とは認められず、したがって権利行使された時点での権利行使価格とその時点での株価との差額については有価証券譲渡所得ではなく付与者によって給与所得等とし、権利行使後の売却の如何を問わず課税することとしています。そして、別に定めた適格要件を満たし届出をしたストックオプションに限りこのような課税を逃れ、権利行使時点では課税されず、売却時に売却額と権利行使額の差額について有価証券譲渡課税の適用を受けることになります。

    適格要件

    • 年間行使額が1200万円以下と契約書に記載されていること。
    • 行使期間が付与から2年経過後10年内と契約書に記載されていること。
    • 大口株主でないこと。(未上場の場合は発行済株式の1/3超を保有する者およびその親族等一定の特別関係者)

    上記のように大口株主に対しては税制適格の要件は適用できませんが、この制度の趣旨がストックオプションの場合新株予約権といっても譲渡禁止条項が付してあり、有価証券は発行されず付与契約書のみであることから転々流通することを前提とする有価証券とは見なさないというところにありますので、大口株主に対しては譲渡禁止とせずに通常の未上場株式と同じように譲渡制限を付した形で新株予約権(ストックオプション)を発行すれば、当初から有価証券となることになります。ちなみに年間1200万円を超えて行使した場合、行使した額は課税対象となりますが、1回で1500万円分行使した場合と、最初に1200万円、次に300万円と2回に分けて行使した場合では課税関係はどうなるでしょうか?この答えは1回で行使した場合は全額が税制非適格扱いとなり、2回に分けた上記の場合は300万円だけが税制非適格扱いとなります。十分注意してください。

    ストックオプションを議決権が少なくなった経営者に付与する場合の留意事項

    資本政策案を見ると、経営者の持株比率がかなり低めになっているケースで、それを補う形でストックオプションをかなりの量、経営者に付与しているケースを見受けます。例えば発行済株式の25%程度を経営者が持っていて、潜在株式を発行済株の15%程度経営者に付与したようなケースでは、付与時に33%以下なので大口株主には該当せず税制適格となる可能性はあります。この場合全ストックオプションを行使すれば、(25+15)÷(100+15)=34.78%と持ち株比率が改善されることとなりますが、気をつけていただきたいのはこの15%相当を行使する際に必要な行使価額が確保可能かということです。もし行使価額が1億円必要で資金が確保できていないとすれば、株の売却益から確保する可能性が高く、その分は持ち株比率が減少することになるからです。もし上記のケースで半分を売らなければ資金が確保できないのであれば、売却後の持ち株比率は(25+7.5)÷(100+15)=28.26%となり15%のストックオプションを付与しても現実的には3.2%程度しか持ち株比率を改善できていないことになります。

    管理会計実践BOOK
    〜ホワイトカラーのための管理会計のはじめ方〜

    管理会計はなぜ必要?といった基礎知識から、管理会計実践のポイントや活用事例まで。管理会計に関する情報をわかりやすくまとめたホワイトペーパーをダウンロードいただけます。

    無料ダウンロード
    • このエントリーをはてなブックマークに追加
    • RSS2.0
    • ATOM
    小田 哲生

    この記事の筆者

    日之出監査法人 統括代表社員 公認会計士

    小田 哲生

    公認会計士。1979年より朝日会計社(現あずさ監査法人)に勤務。2002年より2009年まで代表社員。1985年以降はIPOを専門に扱う企業公開部に所属。20年以上に渡り、IPO業務推進の中心的役割を果たす。関与先でIPOを達成した企業数は30社以上となるが、特に2005年から2008年の4年間にかけて上場を達成した企業は15社となり、公認会計士業界では最多となる。東証、JASDAQ、ヘラクレスなどの主催するセミナーでも数多くの講師を務める。2009年上場準備・中堅企業のための日之出監査法人を立ち上げ、現在に至る。