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ストックオプションの価値

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2013/5/07公開

前回コラムでは、IPOに際して従業員にインセンティブを供与する方法としての「従業員持株会」と「ストックオプション」の違いを解説し、ストックオプションを行使する際に気を付けるべき税制適格について説明しました。

今回はストックオプションの価値について、会計基準に従って解説します。

目次

    ストックオプションの会計処理と本源的価値について

    ASBJの企業会計基準第8号「ストックオプション等に関する会計基準」の13において未公開会社における取扱いが記されています。

    上場会社においてはストックオプションの公正な評価額と行使価格の差を従業員等に与えた経済的利益とし、その対価としての便益を従業員等から受け取るのに応じて費用処理し、ストックオプションの権利の行使あるいは失効が確定するまで貸借対照表上純資産の部に新株予約権として計上することとされていますが、未公開会社においては公正な評価額を求めることは困難であるので公正な評価額に代えて本源的価値と読み替えて適用するとされます。

    本源的価値とはその算定時点で行使したと仮定した場合の価値であり、つまり算定した時点での未公開会社の株式の評価額と発行するストックオプションの行使価格が同額であれば、本源的価値は0となります。

    さて、以上の会計処理を踏まえて、未上場会社がストックオプションを発行する際に是非注意していただきたいことがあります。それは、次のようなケースです。

    1. 1年前に第三者割当で発行した株価は1,000円とします。
    2. その後現在まで業績は計画通りなのですが1株当たりの純資産価格はまだ800円なので、ストックオプションの行使価格は1年前の第三者割当増資のときと同じ1株あたり1,000円としました。
    3. このストックオプションを出した2ヵ月後にVCからのオファーもあり、上場直前のメザニン・ファイナンスとして1株2,000円にて第三者割当を実施することとしました。

    以上のようなことは現在でも十分考えずに良く行われているケースと思われます。この何が問題なのか分かるでしょうか?

    1,2のステップまでは特に問題は無いでしょう。問題なのは2のストックオプションを発行した僅か2ヵ月後にその行使価格の2倍もの価格で第三者割当増資をしたことにあります。この3の行為をしたことによって2の行使価格が時価であるということが非常に説明困難になってしまったということです。常識的に考えて1年前が1,000円、2ヵ月後が2,000円が時価であるとすれば、行使価格は1,800円辺りであった可能性が強いと考えられます。もし1,800円が妥当であったとすれば、ストックオプションの付与者は1株当たり800円の給与等の所得があったと認めなければなりません。この800円は上述の会計基準によって、行使可能となる期日までの会計期間で按分して給与等の費用に計上されることとなります。

    したがって、このストックオプションは税制適格の要件は満たさないこととなりますし、源泉税の納付などの問題も発生することとなります。このようなケースに該当することとならないか、第三者割当に応じるVC等の方も含めて十分にご注意ください。本件のようなケースを回避する方法としては、2の行使価格を1,800円程度と考えられる時価を算定して決める、あるいは3の増資を2の付与から1年程度空ける、などいろいろ考えられると思います。

    ストックオプションの公正価値とブラック・ショールズ・モデル等について

    ストックオプションの公正価値とは、ストックオプションの市場取引において一定の能力を有する独立の第三者間で自発的に形成すると考えられる合理的な価格を意味し、その計算式には連続時間型モデルであるブラックショールズ(B&S)や離散時間型モデルである二項モデルがあるということが、前述の企業会計基準第8号に書かれています。ストックオプションはコールオプションであるためB&Sで計算可能であるが、満期行使ではなく随時行使可能なアメリカンタイプなので二項モデルでの計算が公正価値の計算には合理的とされます。公正価値の計算は次の6つの要素で行われます。

    1. 現在の株価
    2. 行使価格
    3. 行使までの見積り期間
    4. 株価変動率(ボラティリティー)
    5. 見積り配当率
    6. 金利(割引率)

    ストックオプションの価値(公正価値)とは、分かり易く言えば、今相場で50万円する株を、50万円で買える権利はいくらかということを考えると分かり易いでしょう。相場が50万円以上になったとき、例えば60万円になったときに行使してすぐに売却すれば、値上がり分の10万円だけ得をすることになります。 権利を取得してから相場は下がりっぱなしで行使期間を経過したとしても、権利を行使しないだけのことですから損することはありません。

    この権利の額は、行使できる期間が1ヶ月以内の場合と2年以内という場合では当然長い方が価値があるし、対象となる株の今までの価格変動幅(ボラティリティー)が大きいほど価値が有るということが直感的に理解できるでしょう。

    なお、ストックオプションに行使するための条件を付した場合、その内容が厳しいものであるほど公正価値は低く計算されることになります。行使条件の例としては「行使可能期間は発行時より1年以内であり、発行時の株価より50%以上上昇しなければ行使できないものとする。」などが考えられます。

    ストックオプションの公正価値の算定

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    小田 哲生

    この記事の筆者

    日之出監査法人 統括代表社員 公認会計士

    小田 哲生

    公認会計士。1979年より朝日会計社(現あずさ監査法人)に勤務。2002年より2009年まで代表社員。1985年以降はIPOを専門に扱う企業公開部に所属。20年以上に渡り、IPO業務推進の中心的役割を果たす。関与先でIPOを達成した企業数は30社以上となるが、特に2005年から2008年の4年間にかけて上場を達成した企業は15社となり、公認会計士業界では最多となる。東証、JASDAQ、ヘラクレスなどの主催するセミナーでも数多くの講師を務める。2009年上場準備・中堅企業のための日之出監査法人を立ち上げ、現在に至る。