内部統制とは?事例を交えてわかりやすく解説

2020/8/21公開2022/5/17更新
見積書の承認漏れ、誤発注、不明瞭な業務プロセス...。これらの課題を抱えたままでは、企業が健全な事業活動を続けることはできません。人為的なミスや不正の発生を防ぎ、企業が成長するために欠かせないのが「内部統制」。業務プロセスを整え記録することによって、リスクを最小限に抑えることができます。本記事では内部統制の意味や目的、整備の方法について企業の事例を交えて紹介します。
目次
内部統制とは
内部統制とは、企業が健全な事業活動を続けるための社内ルールや仕組みのことです。例えば見積書の承認をもらうとき、何かを発注するとき、稟議書を作成するとき...。あらかじめ決められたプロセスに従えば、ミスや不正が発生するリスクを最小限に抑え、業務効率も上げることができます。組織内の足並みを揃えることで、効率的に経営目標達成を目指すことができるのです。
内部統制は、企業に勤めるすべての従業員によって遵守されるべきもの。よって経営者や正規雇用の社員はもちろん、契約社員やアルバイト、派遣社員といった非正規雇用の従業員も一様に従う必要があります。
コーポレートガバナンス(企業統制)との違い
内部統制と似たような言葉に「コーポレートガバナンス(企業統制)」があります。これは、株主や投資家、取引先といった、企業と利害関係を持つ「ステークホルダー」の利益を守るためのものです。企業が外部に対して公平性や透明性を担保するものであり、企業内部にいる従業員が守るべきルールや仕組みである内部統制とは「対外的・対内的」という点において明確な違いがあります。
内部統制を強化する目的
金融庁の定義によると、内部統制には「業務の有効性及び効率性」「財務報告の信頼性」「事業活動に関わる法令等の遵守」「資産の保全」という4つの目的があります(※1)。それぞれの目的とはどのようなものなのでしょうか。
①業務の有効性及び効率性
業務を進めるにあたり、無駄な時間や労力、経費をかけることは合理的ではありません。内部統制であらかじめ業務プロセスを決めておくことで、業務の有効性・効率性を上げることができます。
②財務報告の信頼性
財務報告に誤りがあった場合、株主や投資家、取引先など、企業と利害関係を持つ人たちに大きな損失を与えることになります。同時に、企業に対する信頼も失われてしまうため、正確な財務報告は非常に重要です。企業の信頼を損なわないためにも、内部統制をしっかり整備・運用し、財務報告に虚偽の記載がされるリスクを減らす必要があります。
③事業活動に関わる法令等の遵守
コンプライアンスは、企業の社会的信頼に大きく関わります。利益を追求するあまり法令違反をしてしまったり、コンプライアンスの甘さが世間の批判の対象になったりした場合、企業の社会的信頼は著しく失墜します。事業の継続のためにも、コンプライアンスは欠かせません。
④資産の保全
企業が事業活動を行う"元手"である資産は適切に管理される必要があります。事業活動において利益を維持し拡大させるためには、資産が正当に取得・活用・処分されるよう、内部統制で仕組みを作ることが重要です。
内部統制が強化されることによって、企業は不正などが発生するリスクを最小限に抑えることができます。また業務プロセスが明確になることで効率化が期待でき、たとえミスが発生してもその原因を突き止め、スピーディーに対処することができるようになるのです。この積み重ねが、企業の社会的信用の向上に繋がるといえるでしょう。
上場準備のための内部統制整備
上場企業およびその関連会社には、事業年度ごとに「内部統制報告書」を提出することが、金融商品取引法により義務付けられています(内部統制報告制度〈J-SOX〉)。つまり、これから上場準備を進める企業にとっても、内部統制の整備は不可欠なのです。
内部統制には、先に述べた「業務の有効性及び効率性」「財務報告の信頼性」「事業活動に関わる法令等の遵守」「資産の保全」という4つの目的があります。これらを達成するためには、以下6つの要素が揃わなくてはなりません(※1)。
①統制環境
内部統制を強化するには、従業員にも経営者と同じレベルの意識を根付かせることが肝要です。内部統制の内容や目的を理解してもらうことはもちろん、企業理念や経営者の意向、経営方針といった組織の根本的な気風への共感も重要です。このような意識の浸透によって内部統制の"環境"が整います。統制環境の盤石化なくしては、以下5つの要素は成り立たないといっても過言ではないでしょう。
②リスクの評価と対応
内部統制の4つの目的を達成する妨げとなるリスクを発見し、分析と評価によって適切な対応をするまでの一連のプロセスです。リスクを評価する際には、全社的に影響を及ぼすリスクと業務別に関わるリスクに分類。その性質によって分析を行い、内部統制の4つの目的にどのような影響があるかを評価します。
③統制活動
経営者が出した命令や指示が社内に行き渡り、確実に実行されるための方針とプロセスです。ここには、権限や職責の付与、職務の分掌なども含まれます。これらは、業務プロセスの一部として組み込むことでスムーズに機能するでしょう。
④情報と伝達
業務に必要な情報は、必要なタイミングで社内共有されていなくてはなりません。従業員が社内外とコミュニケーションをとる際に正しい伝達ができるよう、情報を適切に識別、把握、処理できる体制を整える必要があります。
⑤モニタリング
内部統制の運用を開始した後は、それが問題なく機能しているかを継続的に監視・評価しなくてはなりません。モニタリングには、業務のなかで日常的に行うものと、業務から離れた視点で経営者や取締役会、監査役といった内部監査などを通じて実施されるものがあります。
⑥ITへの対応
先に述べた内部統制整備のための5要素を有効化するために、ITの導入が必要です。また現代社会においては、業務を実施する上でIT環境を整えることは不可欠であり、導入後の継続的な整備も欠かせません。
一口に「内部統制の構築」といっても、このように整えるべき要素は広範囲に渡ります。そして上記6要素は一体となって初めて「内部統制」として機能するものであり、その構築は単純ではありません。
2008年に内部統制報告制度(J-SOX)が導入されたことによって、多くの企業において内部統制の強化が図られました。実際に整備・運用に成功している企業では、内部統制のためのシステムを導入しているケースも多いようです。
システムで内部統制を強化した事例
では内部統制の強化に成功している企業では、実際どのように構築・運用しているのでしょうか。システムを導入し課題解決した事例を3つ紹介します。
①承認履歴によって課題解決がスムーズに
はじめに紹介するのは、3次元CAD/CAMシステムの開発を通して日本のものづくりをサポートする「日本ユニシス・エクセリューションズ株式会社」。同社が以前使用していたシステムでは承認履歴が残らず、内部監査での指摘事項に対処しきれない課題を抱えていました。またシステムの老朽化も進んでいたため、内部統制も含めた包括的な課題解決を目指す業務改善プロジェクトを立ち上げたのです。
このプロジェクトにおいて、同社はまずシステム導入以前の地盤づくりに取り組みました。具体的には、1年目に課題を整理し、優先順位を決定。2年目からは業務プロセスの刷新を進めたといいます。このような基礎の盤石化は、内部統制の強化において非常に重要です。
システム導入後は、新しい業務プロセスに合わせたワークフローを設計。承認履歴も自動で記録されるようになったため、内部監査における指摘事項にもスムーズに対応できるようになりました。
②申請・承認プロセスの構築で業界の慣習から脱却
続いての事例は「東京テアトル株式会社」。映画、飲食、不動産と幅広く事業展開する同社では、部門ごとの業務に適したシステムを導入しています。今回ご紹介するのは、広告・セールスプロモーションを担う「ソリューション事業部」の事例です。
同事業部では以前、申請・承認におけるIT面の不備があり、承認がなくても見積書や請求書発行ができてしまう課題がありました。そこで、見積書や請求書の発行、受注、発注などを行う際にシステム上での申請・承認が必要となるプロセスを新たに構築。「案件金額が○○円以上」「案件利益率が○○%以下」といった特定条件を満たす場合の決裁ルールも設定しました。このようにシステムをカスタマイズすることで、システマチックでありながらも柔軟な運用が可能になったといいます。
広告業界では、システムを導入した業務の標準化・パターン化が進んでいないといわれています。その上、発注が担当者間のメールのやりとりで済まされることも多く、いわゆる「口約束」「未契約」でプロジェクトが進んでしまいがちです。今後システムの導入が進めば、業界全体が現状の慣習から脱却することも期待できるのではないでしょうか。
③上場までわずか2年弱 そのカギはシステムリプレイス
最後に紹介するのは、3Dプリンター出力事業と鋳造事業によってものづくりのサポートをする「株式会社JMC」。同社はわずか2年弱の準備期間で東京証券取引所マザーズ市場への上場を果たしたという異例の実績があります。
上場するにあたり、同社では迅速に正確な財務データを作成できるよう、早急に内部統制プロセスを構築する必要がありました。特に大きな課題だったのは、非効率な原価計算。同社の場合、原価の大半が人件費であるにも関わらず、作業工数を手作業で計算していました。そのため、ありえない原価データが作成されるなど、不正確な原価計算が行われていたのです。これは当然、内部統制に甚大なリスクをもたらすことになり、上場の妨げにもなります。
そこで同社が行ったのは、既存システムの改良ではなくシステムそのものを入れ替えること。大変さは承知の上で、少しでも効率よく体制を整えるための決断だったといいます。
システム導入の際には、同社側からも積極的に相談を持ちかけました。それぞれの業務プロセスの具体的な申請承認フローなどのルールを決め、それがシステム上で運用可能かをSEに確認。これを繰り返すことで、効率的に内部統制が働くような仕組みづくりを進めていったといいます。また同時に、内部統制を運用する上で基本となる「統制環境」を整えるために、従業員向けの説明会開催などにも力を入れました。
最近では、上場承認のハードルはいっそう高くなっているといいます。監査法人や証券会社といった外部からの改善指摘にも早急に対応できるよう、業務のシステム化は欠かせません。内部統制は、結果的に上場に向けた体制づくりに繋がるともいえるでしょう。
クラウドERPで内部統制を強化
3つの事例でも見たように、内部統制を強化する際にはシステムを導入することが最も効率的かつ効果的です。このブログを運営する株式会社オロが提供しているクラウド型ERPパッケージ「ZAC」でも、内部統制の構築・運用をサポートしています。
特に支持されているのが、電子承認機能によるワークフローの構築とログの自動保存です。「ZAC」では、見積書の作成や発注、経費申請などの業務処理において、電子による申請・承認が可能です。申請・承認フローは申請内容に合わせて機能するため、業務を行っているうちに自然と社内統制が実現するのです。
また各承認のログは自動保存によって残るため、いつ、誰が、どの案件でどんな承認を行ったのかを証跡管理することができます。他にも、アクセス権限の設定やモバイル承認の対応など、内部統制を支援する機能を豊富に備えているのが「ZAC」の特徴です。
ZACによるワークフローのイメージ
内部統制・J-SOX法への対応をサポートするクラウドERP ZAC
まとめ
業務プロセスを整え記録することによって、リスクを最小限に抑える「内部統制」。様々な要素が一体となって機能することから、効率的かつ効果的に構築・運用するためにシステムを導入することをおすすめします。
<参考記事>
※1 財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(意見書):金融庁