人時生産性とは。労働生産性との違い、向上のためにできること

2022/7/01公開
企業の生産性を上げ、競争力を高めるために注目されている「人時生産性」。労働人口の減少と働き方の多様化が進むなかで重要な指標となっています。
人時生産性は業務にあたる人数と時間、生み出される粗利高から算出でき、さまざまな角度で生産性に関する分析・改善を行えるものです。本記事では、人時生産性の特徴や計算方法、向上させるためのポイントをお伝えします。
目次
人時生産性とは
人時生産性とは、1人が1時間働いた場合にどれだけの粗利が生み出されているかを測る指標です。そもそも人時とは、1人で行う場合に1時間かかる作業量のことを指します。たとえば、2人で1時間かけて終わる作業は2人時、2人で30分かけて終わる作業は1人時となります。
生産性は、リソースのインプットに対してどれだけアウトプット(成果)が得られたかを表すものです。人時生産性の場合は、成果を「得られた粗利」で評価することになります。つまり、人時生産性が高いほど効率的に利益を生んでいることになるのです。
人時生産性を高めることは企業の競争力強化につながるため、重要な経営指標だと言えます。ここからは、さらに詳しく人時生産性について解説していきます。「とりあえず生産性向上についてまとまった資料がほしい」「コスト削減の具体例が知りたい」という方は、こちらから生産性向上BOOKをダウンロードなさってください。
注目されるようになった背景
近年、派遣社員を主な戦力としたり、ワークシェアリングによって複数人でひとつの業務を分担したりと、働き方や雇用形態が多様化しています。そのため、1人あたりの生産性を正確に算出することが難しかったり、算出しても他の従業員の参考にならなかったりと、指標として適切ではない状況が増えてきました。
労働人口減少により生産性向上が急務な日本にとっては、より実用的な生産性指標の利用が必須です。そこで、「1人あたり」から「1人1時間あたり」とさらに細かい生産性が注目されるようになりました。
人時売上高との使い分け
人時売上高とは、従業員1人1時間あたりの売上高を示す指標です。人時生産性と並んで使用されることも少なくありません。
人時生産性との違いは、材料費や人件費などのコストを考慮しているかどうかです。人時生産性は1人1時間あたりに生み出す粗利をもとに算出しますが、人時売上高は純粋な売上高のみで計算します。
人時売上高は、飲食店の経営において重要視される指標です。企業の売上規模を測るためにも使われます。
人時生産性と労働生産性の違い
人時生産性と混同されがちなのが、労働生産性です。どちらも経営指標として重要であるため、その違いを理解しておかなければなりません。
労働生産性は、労働者1人あたりが成果を生み出す上での効率を数値化したものです。投入した労働量に対し、どれだけの成果を産出しているのかを測ります。労働生産性で扱う成果は、具体的な生産物の量のこともあれば、付加価値の場合もあります。
一方、人時生産性は1人が1時間でどれだけの粗利を生み出したかを測る指標です。付加価値生産性とも考えられます。つまり広義で言えば、人時生産性は労働生産性の一部となるのです。 労働生産性について、詳しくはこちらの記事を参照ください。
人時生産性の算出方法
人時生産性は、以下のような計算式で算出できます。
- 人時生産性=粗利÷総労働時間
ここでいう粗利とは、売上高からコストを差し引いたものです。総労働時間は、その業務にかかった人数×時間となります。たとえば、2人の従業員が2時間かけて12,000円の粗利を出した場合、人時生産性は3,000円です。
人時生産性を上げるには、作業にかかる時間を減らすか、同じ時間で生み出せる粗利を増やす必要があります。また、計算する際は正確な数値を把握しておかなければ、正しい人時生産性を求められない点にも注意しましょう。
人時生産性分析の具体例
人時生産性の定義や計算方法がわかったら、次はその数値をどう分析するか考えなければなりません。ここでは、業種別と部門別の分析について解説します。
業種別の分析
人時生産性は業種によって異なります。中小企業庁が公開している「中小小売業・サービス業の生産性分析」(*1)によると、業種別の平均人時生産性は以下の通りです。
- 製造業:2,837円
- 小売業:2,444円
- 宿泊業:2,805円
- 飲食店:1,902円
製造業と飲食店の人時生産性を比べると、約1.5倍の差があることがわかります。飲食店の人時生産性は低めであると言えるでしょう。人時生産性の目標を立てる場合には、業種の特性を考慮することが大切です。
部門別の分析
上述のように、業種や企業といった大きな枠組みでの人時生産性は重要です。加えて、組織の中でも部門ごとに人時生産性の違いがあるため、部門別に分析する必要があります。企業として利益が出ていても、部門によっては人時生産性が下がっていることも考えられます。そのため、企業としてだけでなく部門ごとの人時生産性を把握し、改善が必要な部門がないか確認しなければなりません。
人時生産性を向上させる3つのポイント
人時生産性は粗利÷総労働時間で算出されるため、単純に考えると、粗利を増やすか総労働時間を減らすことで向上できます。具体的には、以下の3つのポイントに着目して、自社や自部門に合った対策をとってみてください。
人員配置を調整する
総労働時間を減らすためには、短い時間でその業務を終わらせられる人材に任せることがポイントです。従業員の適性を把握し、適切な人員配置を行うことで、業務にかかる労働時間を削減できます。
しかしながら、従業員の成長や社内にナレッジを貯めていくこと、退職のリスクを考えた場合、人時生産性だけを考慮した人員配置の調整は危険でもあります。目標となる人時生産性を算出し、部署や部門全体のパフォーマンス向上に繋げるといった活用方法がおすすめです。
パフォーマンスが上がることで粗利高の増加が見込め、相乗効果的に人時生産性を向上できる可能性があります。
ITツールやRPAの導入
労働時間を減らすために有効なのが、ITツールによる業務効率化です。これまで紙面や人力で行っていたことをITツールやRPAに置き換えることで、作業時間の短縮が見込めます。ヒューマンエラーや手直しも減らせるでしょう。
チャットツールや工数管理システムなど、社内で同一のITツールを使うことによって部門間のコミュニケーションや情報共有の円滑化を図り、社内全体の人時生産性を向上させることも可能です。
経営における人時生産性
人時生産性は、コスト管理や収益性・競争力の分析にも役立つ指標であるため、労働・知識集約型ビジネスの安定経営において重要視されています。
多くの企業では労働力と時間に制約があり、限られたリソースで効率的に粗利を上げることが求められます。人時生産性を分析し正しく改善を進めていくことで、日本全体の課題となっている労働人口減少による人材不足への対策ができる、従業員のワークライフバランスの実現といったメリットが得られます。
本ブログを運営する株式会社オロでは、さらに細かな1時間当たりの営業利益(時間当たり利益)というKPIを重視しています。このKPIにより、短い労働時間で結果を出せる効率のよい人の方が評価される仕組みや営業利益ベースでの赤字を防ぐといった効果を生んでいます。
詳しくは下記の関連記事をご覧ください。
まとめ
働き方が多様化するなかで企業の生産性を上げるため、「人時生産性」に注目が集まっています。人時生産性は、限られた労働力や労働時間を最適化するための指針となるものです。業種や部門によっても数値が異なる点を考慮しつつ、人時生産性の分析を行っていきましょう。
人時生産性を高めるためには、最適な人員配置による総労働時間の削減、ITツール導入などが有効です。特にITツールの導入は、部門によっては労働時間の大幅な削減が期待できるでしょう。
人時生産性は労働・知識集約型ビジネスにおける重要な経営管理指標のひとつです。人時生産性を向上させることは、会社の成長に繋がっていきます。