労務費とは?人件費との違いを押さえ、正確な労務費計算を行うには

2021/11/26公開2022/5/30更新
労務費は、企業の利益にも大きな影響を及ぼす費用のひとつです。人件費との違いや、労務費に含まれている費用、算出するための計算方法などを正しく理解しておく必要があります。本記事では、労務費についての基礎知識や、実務に使える計算方法などを解説します。
目次
人件費と労務費の違い
名称 | 人件費 | ||
---|---|---|---|
労務費 | 販売費 | 一般管理費 | |
説明 | 製品・サービスの製造に直接かかる費用 | 販売にかかる費用 | 企業の管理全般にかかる費用 |
具体例 | 制作部門の賃金など | 営業部門の賃金など | 管理部門の賃金など |
人件費は、従業員に関わる費用全般です。労務費・販売費・一般管理費の3つを合わせたものになります。
労務費とは、人件費のうち、製品やサービスを生産するためにかかった費用のことです。制作部門の場合は生産に直接携わっている従業員の賃金・給料などが労務費にあたります。営業部門の従業員の賃金・給料は販売費、管理部門の従業員の賃金・給料は一般管理費です。
労務費は「労働力の消費」と考えられ、材料を消費することと同様に扱います。そのため製造原価に算入され、他の人件費と異なる会計管理になる点が特徴です。
労務費の中でも、「製品やサービスの生産にかかった」と特定できる労務費は「直接労務費」、生産にかかったとはっきり特定できない間接的な労務費は「間接労務費」となります。
ここからは、さらに詳しく労務費について解説していきます。「まずは原価計算の目的・メリットをまとめて知りたい」「プロジェクト別原価計算についてもざっくり知りたい」という方は、こちらからプロジェクト別原価計算ガイドをダウンロードなさってください。
労務費に含まれる5つの費用
労務費には、大きく分けて以下の5種類の費用が含まれています。どのようなものが労務費にあたるのか、正しく把握しておきましょう。
賃金
制作部門の従業員の給与は労務費となります。残業手当や休日出勤等の割増賃金も、ここに含まれます。
雑給
制作部門の従業員のうち、時給で働くパートタイマーやアルバイトの給与のことです。正社員や契約社員の給与とは別に扱われます。
従業員賞与手当
制作部門の従業員の賞与や、扶養手当・通勤費・家賃補助などの各種手当も、労務費に含まれます。
退職給付費用
制作部門の従業員の退職に備えて積み立てる費用のことです。会社は全従業員に対して退職費用の積立金を用意していますが、なかでも制作部門の社員の分は労務費扱いとなります。
法定福利費
制作部門の従業員にかかる社会保険料(健康保険、雇用保険など)のうち、会社負担となる費用も労務費に含まれています。
労務費計算を行うには
製品・サービスの生産に直接携わる従業員は、勤務時間と賃率の情報があれば労務費を計算できます。
エンジニアの労務費の場合は、以下のような情報が必要です。
【エンジニアの労務費計算を行う場合】
- システム開発に関わった時間
- 賃率(=エンジニアの賃金÷エンジニアの就業時間)
計算を行う準備として、まず上記の情報を正確に把握しましょう。
なかでもシステム開発業や広告業といったプロジェクト型ビジネスでは原価の大半を労務費が占めているため、正確な労務費の把握は重要だと言えます。
直接労務費と間接労務費
労務費は直接労務費と間接労務費に分けられ、それぞれ異なる計算方法で算出します。どちらの労務費を算出するのか明確にしたのち、適切な計算方法を使用しましょう。
直接労務費の計算方法
システム開発を例に挙げると、「エンジニアがシステム開発に直接関わっている時間」に対して発生する費用が直接労務費です。計算方法としては、まず賃率を算出します。次に、生産にかかる時間と賃率を乗算して直接労務費を算出します。
具体的な計算式は以下の通りです。
- 賃率=エンジニアの賃金÷エンジニアの就業時間
- 直接労務費=賃率×システム開発にかかる時間
間接労務費の計算方法
間接労務費は直接労務費に該当しないもので、具体的には下記が該当します。
- 間接作業賃金(経費申請など、エンジニアが生産以外の作業を行なった時間分の賃金)
- 制作部門の管理職など直接生産に携わらず、生産の支援を行う従業員の賃金
- 手待ち賃金
- 休業賃金
- 従業員賞与手当
- 退職給付費用
- 法定福利費
間接労務費は、上記作業に対して発生した労務費を足していくことで算出可能です。もしくは、労務費全体から直接労務費を差し引いても算出できます。
- 間接労務費=労務費−直接労務費
建設事業などで求められる「労務費率」とは
労務費率とは、請負金額に対する賃金総額の割合のことです。これは厚生労働省によって定められており、建設事業の労災保険料を算出するために使われます。 労災保険料は一般的に、賃金総額×労災保険率で算出されます。
しかし、建設事業は下請労働者の数が多く、賃金総額を正確に算定しづらい業態です。そこで、労務費率を用いて賃金総額を算出します。計算式は以下の通りです。
- 賃金総額=請負金額×労務費率
労務費率は、厚生労働省により事業の種類に応じて定められています。(*1)
- 水力発電施設、ずい道等新設事業:19%
- 道路新設事業:19%
- 舗装工事業:17%
- 鉄道または軌道新設事業:24%
- 建築事業:23%
- 既設建築物設備工事業:23%
- 機械装置の組立てまたは据付けの事業(組立てまたは取付けに関するもの)38%
- 機械装置の組立てまたは据付けの事業(その他のもの):21%
- その他の建設事業:24%
ただし、厚生労働省の定期調査によって労務比率の見直しが行われるため、賃金算出に関わる部署の担当者は常に最新の数値を把握しておかなければなりません。
まとめ
製品・サービスの生産にかかる費用が労務費です。労務費は人件費の一部であるものの、営業にかかる費用や一般管理費とは別に考える必要があります。さらに、直接労務費と間接労務費に分けられるため、それぞれ別の計算方法を用いて算出しなければなりません。
正確な労務費計算を行うためには、従業員が生産にかかっている時間とそれ以外の時間を正しく把握し、計算に必要なすべての情報を収集する必要があります。建設事業においては、労災保険料を算出するための労務費率も把握することが大切です。
労務費は製造原価に参入される費用であり、企業の利益確保のためにも重要な数値です。正確に算出できるよう、計上すべき費用や計算式を正しく理解しておきましょう。